基本情報(イラスト化当時のものです)
担当:頭の中の辞書で表現を探す
性格:大らか
表情:楽しそう
アイテム:表現集
こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
探し屋三姉妹の二人目は、表現を探すコビトさん。
コインの両面のように決まりきった対訳がある表現もあれば、同じ言葉でも臨機応変に訳の表現を変えなければならない場合もあり、ここもバタバタしやすいプロセスです。
それぞれ例を挙げてみます。
決まった対訳があるパターン:
「絵に描いた餅」という日本語表現があります。これに対して英語には、”Pie in the sky(直訳:空飛ぶパイ)”という表現があります。どちらも「実際には役に立たないもの。実現する見込みのないもの。」という意味の表現で、どちらが出ても対訳は決まっています。
こういうパターンの場合は、「知っている」ことが大切。勉強で伸ばせる可能性の高い部分です。
臨機応変に訳を変えるパターン:
日本語でよく使われる、「よろしくお願いします」という表現。挨拶の冒頭や最後、会話の結び、またはメールの結びとして、誰でもよく使う表現です。しかしながらこの言葉、意味を尋ねられた時に説明できますか?
通訳をしていて痛感したのは、この言葉自体にはほとんど意味が無く非常に訳しづらいものの、日本語表現には欠かせないものであるということです。そしてお客様が使ったからには、訳さないわけにいかないのが私達通訳者です。そこでこの場合は、状況によって使い分けられるように何パターンかの訳を用意してあります。
「本日はよろしくお願いいたします」
“I appreciate your cooperation today.”
(直訳:本日はご協力いただき感謝いたします。)
「今後ともよろしくお願いいたします」
“I’m looking forward to working with you in the days ahead.”
(直訳:今後共に仕事ができることを楽しみにしております。)
“We will appreciate your continuous cooperation (又は support).”
(直訳:弊社への継続的なご協力(ご支援)に感謝いたします。)
「何卒よろしくお願いいたします」
“I greatly appreciate your cooperation.”
(直訳:ご協力いただき、心より感謝いたします。)
挨拶の冒頭や相手を待たせてしまっている場合等の「よろしくお願いします」
“I appreciate your patience.”
(直訳:ご辛抱いただき、感謝いたします。)
メールでの結びの場合
“Sincerely,”
(直訳:誠意を込めて)
以上はあくまでも例で、実際には「よろしくお願いします」の数だけ訳があると思って良いと思います。これは表現を知っておくことも必要ですが、経験が物を言う部分です。本で学ぶだけでは訳せないことは、実に沢山あります。
さてコビトさんの話に戻りましょう。
語彙担当のコビトさんに比べると、表情が明るい彼女。性格も「大らか」とあります。その理由は、表現というのはある種センス、感覚が大切なものなので、あまり必死にならずに大らかな気持ちで表現を選びたいという、当時の私の願望でもありました。また先述の通りここは勉強だけでは追いつかない部分も多いため、あせらずじっくり育てて行こうじゃないかと開き直っていたところもあります(笑)
とは言えもちろん勉強もしました。我らが大先生の著書「訳せそうで訳せない日本語」や、「オジサン表現集」なるものを読んだり、語彙の勉強と同じくクラスメイト達のパフォーマンスからも多くを学びました。このコビトさんの持つ表現集の多くは、クラスメイト達から盗んだものです。
ちなみにアイテムはオリジナルでは表現集でしたが、語彙担当の辞書とかぶるのと、野菜や果物のように色とりどりのものを沢山揃えて選ぶというイメージから、ゆかさんがイラスト化の際にアレンジしてくれました。
今でもこのコビトさんの姿勢は変わりません。大きな気持ちで楽しみながら良い表現を探そうと、明るくニコニコと動き回り、日々新しい表現を手持ちの表現集に加えているのです。
コメントやご質問はお問い合わせページからお願いします。
次の記事:通訳の技術と脳内⑦ 知識を探す
前の記事:通訳の技術と脳内⑤ 単語を探す