えーと...思い出しながら書こうとするだけで緊張して胃がキュウっとなります。準備科でこれでは先が思いやられる...(苦笑)思い出すだけで胃が痛くなるサイマル・アカデミー通訳コースでの4年間は、私にとって青春でした。青春ドラマが書けそうなくらいのスポ根でした(笑)
本題に入る前に【私が通訳者になるまで14】の記事について補足説明をしておきたいと思います。
この記事の中で私は、「通訳訓練を勝ち残る」と表現しました。これは誤解を生みやすいので説明しておきますが、「勝つ」相手はクラスメイトや同じ科の他のクラスの生徒ではなく、自分です。
私が在学していた頃サイマル・アカデミー通訳コースのクラス数は、準備科(現通訳I)6クラス、入門科(現通訳II)6クラス、通訳科(現通訳III&IV)2クラス、同時通訳科(現会議通訳I&II)1クラスでした。入門科6クラスから一気に通訳科2クラスになりますから、ここで入門科生徒の中で「競争」があるのではと思われるかもしれませんが、そうではありません。“そのくらいの数しか進級できない”のです。当時の入門科責任者の先生はこう言い切りました。
「その数しか必要ないから2クラスしかないんです。クラスが足りなくなれば、もう1クラス作ります。」
進級の可否を決めるのは誰かと比べて上か下かの“相対的な実力”ではなく、合格ラインに達しているかどうかの“絶対的な実力”です。極端な話、たとえその科で一番の実力を持っていたとしても、合格ラインに力が及ばなければ進級は叶いません。
最後まで自分の弱気や言い訳に負けずに合格ラインに挑み続けられるかどうか。通訳訓練とは、そういうものなのです。
さて通訳コース最初のクラスだった準備科では、その時間の大半を基礎訓練に費やしました。通訳訓練の基礎訓練とは主に、シャドーイング、音読、リテンション&リプロダクション、パラフレージング、要約です。と並べても知らない人にはナンノコッチャだと思いますので、それぞれ詳しく説明します。ちなみにどれも全て、英語は英語、日本語は日本語で行います。
シャドーイングとはスピーチなど一定の長さのある音源を聞きながら、一拍遅れて追いかけるように同じ内容を話す訓練です。歌の輪唱のような感じと言えばイメージしやすいでしょうか。発音、リズム、スピードの勉強になる他、同時通訳の一番最初の訓練と言ってもいいと思います。
音読はそのまま、英語なり日本語なりの文章を声に出して読む練習です。とても地味ですがこれもまたとても重要な訓練です。シャドーイングとは異なり、他の音に邪魔されないので自分の発音をじっくり再確認できますし、声の出し方や話すスピードの練習にもなります。
上の2つ、シャドーイングと音読はクラスの最初でやり方だけ教わり、基本的には日々の自主勉強で行うものなので、授業ではほとんどやりません。たまに抜打ちで「最初の5分間シャドーイング!」と言う先生もいらっしゃいましたが(笑)
リテンション&リプロダクションとは記憶して(retain)再現する(reproduce)ことの訓練です。聞いた話を完璧に記憶し、それを完璧に声に出して再現する練習です。以前通訳工場のコビトさん(記憶担当)の記事でも触れましたが、通訳をするにあたりまず大切なのは、元のメッセージを一言一句完璧に記憶することです。正確に記憶できなければ、正確な通訳はできません。
またこの技術は訳す時以外にも重要です。例えば話の流れから相手が「さっきこう言いましたよね」と言った時、話者本人が使った言葉の通りに聞き返すことで不要なトラブルを回避することができます。再確認の際に少し言葉や表現が違っただけでも、「いえ、そんなこと言ってません」と言われてしまうことになりかねないからです。
パラフレージングは、同じ文章を意味を変えずに言葉や表現だけを変えて言い直す訓練です。上辺の言葉にとらわれることなく本当に伝えたいメッセージを理解し、表現を変えて尚その核となるメッセージをしっかり表現しきることの練習です。通訳をするにあたって言語が変われば、当然使う言葉や表現も変わります。それでも尚一番伝えたいことを正確に伝えるための、基礎訓練です。
要約とは言葉の通り、長い文章を上手く枝葉を落として短くまとめる訓練です。通訳者は基本的に、話者の話を忠実に訳します。しかしながら何度も同じ話を行ったり来たりしてしまう人や、人前で話すことにあまり慣れておらず話が散り散りになってしまう人などの場合、伝わりやすいように話を整理して訳すことも大切な技術です。また話者が話しすぎて通訳の時間が限られてしまい、短い時間で簡潔な訳を求められることもあります。そんな時はどの情報をそぎ落として何を優先するか、瞬時に判断しなければなりません。その技術を身に付けるための訓練が、要約演習です。
訓練を始めた当初はどれも苦手...いえ苦痛でした。
リテンション&リプロダクションはたった2文も覚えられず、正確に記憶するどころか1文丸ごと落としてしまったり、パラフレージングは元の表現や他のクラスメイトのパフォーマンスに引きずられてほぼ同じ表現になってしまったり、要約は何を落として何を残せばいいのかさっぱり分からず毎回半べそでした。
そんな中でシャドーイングだけは、地道に続けようと最初の授業で決めました。シャドーイングは私の強みである発音を強化できる訓練でしたし、いつかやるであろう同時通訳をイメージできるのが楽しかったからです。実際はどの基礎訓練も同時通訳に不可欠な訓練だったのですが、それが分かるのはまだまだずっと後のことです。苦痛だらけの通訳の基礎訓練の中で、最初から楽しめたのはシャドーイングだけでした。とにかく何がだめでもシャドーイングは毎日やると決めました。
その道は憧れの同時通訳に繋がっていると強く信じ、準備科・入門科の1年半は毎日一日も欠かさずにやり通しました。
長くなったのでここで切ります。
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