【私が通訳になるまで22】通訳学校と入門科1(口頭テスト)

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

 今回で22回目となる「私が通訳者になるまで」シリーズ。厳密に「通訳者になるまで」とすると、先日1920で書いたデビュー戦である意味「通訳者になった」ことにはなると思います。

 

 しかしながら元々は自己紹介を兼ねて私の英語歴を振り返る目的で始めたものなので、このシリーズは私がサイマル・アカデミーの同時通訳科を卒業するところまで書く予定です。

 

 まだまだ先は長いですが、どうぞのんびりお付き合いくださいませ。それでは今回からは、サイマル・アカデミー通訳コース入門科(現通訳II)を振り返ります。

 

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 入門科は準備科の続きのようなクラスで、準備科の頃よりは求められる訳の質は多少高くなりましたが、相変わらず基礎演習も多く、基本的な授業内容は変わりませんでした。授業内容が大きく変わり本当に同じ通訳コースなのかと思うほど過酷な状況になるのは、この次の通訳科からです。もちろん準備科でも入門科でもその時々で大変だ大変だとは思っていましたが、この先はその比ではありませんでした。とは言えその話はもう少し後にして、まずは入門科の話から。

 

 準備科と入門科で大きく違ったことと言えば、学期の後半からはほぼ全てが生教材になったこと、録音演習の時の訳出時間が短くなったこと、訳に使う言葉を注意されることが多くなったこと、そして時事クイズが隔週になった代わりに口頭テストなるものが登場したことです。

 

 まずは口頭テストについて説明します。

 

 入門科では毎週時事クイズと口頭テストが交互に行われるようになりました。時事クイズは範囲・内容・勉強方法ともに準備科時代のものと同じだったので、ここでの説明は省きます。新たに登場した口頭テストでは、まず毎回特定の分野の専門用語60~70個の一覧表が配られ、テスト当日までにそれを日英両方で覚えます。60~70個とは言っても、語彙不足が深刻だった当時の私には日本語でも意味がイマイチ分からないものも少なくなかったため、実質毎回覚える単語は日英合わせて100個を超えていました。

 

 テスト当日は一覧表の単語のうち半数の単語が英語または日本語でランダムに吹き込まれたテープを流し、生徒はそれぞれの単語の後に対訳を吹き込みます。吹き込みが終わったらペアの相手とテープを交換し、採点します。

 

 これは単に様々な分野の単語を覚えるためだけのテストではなく、単語の正しい発音や読み方を確認するためでもあり、また新しく覚えた単語にも瞬時に対応できるよう繰り返し練習をする癖をつけるためであり、対訳を素早く出せるように瞬発力を培うためのテストでもありました。通訳者は声に出すことが仕事ですから、単語を覚えても声に出して使えなければ意味がありません。新しい仕事の度に新しい単語を覚えるのも仕事の一部ですが、日英それぞれの言語で単語の意味を確認し覚えたら、それを正しく淀みなく発音できるかどうか、単語が出てきた時に即座に対訳が浮かぶところまで身に付いているかどうか、そこまで確認をして、「準備」となります。

 

 余談ですが私の場合、毎回仕事の単語を調べる際に困るものの一例が、企業名や団体名です。中には頭文字だけを取って省略したものにも特定の読み方がある場合もあり、さすがにその読み方は辞書には載っていません。そんな時に役立つのが、You Tubeや企業・団体のサイト上の動画です。その会社や団体の動画があれば、大抵冒頭で名前を言ってくれますし、誰に聞くよりも確実に正しい読み方を知ることができます。もちろんどうしても分からない場合は当日行った先で聞いて覚えれば良いのですが、事前に準備をして行けるのならそれに越したことはありません。

 

 さてこの口頭テスト。時事クイズとは異なり室内の生徒が一斉に同じテープを聞いて吹き込むので、当然周囲の解答が聞こえてしまいます。そうなるとたとえ間違えても言い直せば間違いにならない、そう思う方もいるかもしれません。しかし周りが正解を言っている中で一人だけ間違うと、その声は目立ちます。目立つと言うことは、その人が間違えたことに周囲は気づいてしまいますし、言い直すと言うことは周囲に遅れて吹き込むことにもなります。またテスト中は担当講師が聞いていますから、こう言ったズルは実質不可能です。まあこのテスト自体自分の実力を測るためのものなので、ズルをして1点稼いだところで無意味ですし、そんなせこいことをする生徒はまずいません。そもそも周囲の音がしっかり聞こえる状況での口頭テストなので、みなさん間違えないようにしっかり勉強して来ますし、誰かが間違えること自体稀です。実際私も1年間(2期)入門科をやった中で口頭テストで間違えたのは、うっかりやらかした1問だけでした。

 

 こんな風に「テスト」とは呼びながらも「絶対間違えられない」緊張感の中でやる口頭テストでしたから、時事クイズ同様毎回とにかく念入りに準備をしました。

 

 私がやっていた口頭テスト対策は、

 

1.暗記カードを作っていつでもどこでも反復練習

2.日英それぞれの単語を自分で間隔をあけて吹き込み、それに対訳を録音する本番風の練習

 

 主にこの2つでした。これを2週間おきにやっていたので、学期が終わる頃には暗記カードが山積みになっていました。

 

 ただしいくら2週間おきに70個近い専門用語を暗記していたとは言え、普通は使わなければ忘れてしまうものです。毎回あれだけ必死に覚えた単語も現在頭にどれだけ残っているかと考えると、あまり自信がありません。そもそも特殊なものが多かったと思いますし。

 

 しかしながら時に自分でも驚くのは、たまに仕事でその分野と全く関係の無い単語が出てきた時、「マズい分からないかも(冷汗)」とドキっとする私をよそに、口から勝手に対訳がスルっと出ているということが何度もありました。この不思議な回路がどことどう繋がっているのかはよく分かりませんが、一度必死で覚えたものは忘れたと思ってもどこかに残っているということなのかもしれません。

 

 

 

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