こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
前回の通訳学校の現実に引き続き今回は、「英語が好きだから」という理由で通訳学校に通う際の私が思う注意点と、前回書いたような辛い思いをしてまで通訳学校に通う意義について私の考えを書きます。
それではまず、「英語が好き」で通訳学校に通う際の注意点から。
通訳学校に通う動機は人それぞれです。中でも一番多いのは、「英語が好きだから」という動機だと思います。確かに通訳・翻訳は語学系の職業の花形で憧れですから、語学をやっている以上挑戦したくなるのは自然なことです。私もそんな大勢の中の1人でした。
そんな一番ありがちな動機から通訳者を志し通訳学校に通った者として、あえて書いておきます。
「英語が好きだから」で通訳学校に入ると、地獄を見ます。
これは前回の記事から読み取れる通りです。笑って「英語が好き」と言えない日が必ず来ます。英語が好きであればあるほど、通訳訓練は苦しいです。それでも貫き通せるほどの強い気持ちと愛情が無い限り、「好きだから」だけでやり遂げられる訓練ではありません。
私はサイマルアカデミー在籍中、様々な人と出会いました。その中で私が出した結論は、「好きだから」よりも「持てるスキルを最大限活かすため」とドライに割り切っている人の方が、通訳訓練には耐性も適性もあると言うことです。そして彼女たちの多くは入学する時点で既に英語力が非常に高い人たちです。英語が好きとか嫌いではなく、日本語と同じように生活の中に当たり前にあったという、帰国子女のバイリンガルに多い印象です。
正直英語に対して大した愛情も無いのに実力では軽く自分の上を行く彼女たちの存在は、一緒に勉強していて悔しかったですし苦しかったです。それでも他者と比べず、他者を妬まず、ひたすら自分と向き合わなければいけません。そんな環境の中で尚「英語が好き」で頑張るためには、相当な覚悟が必要です。
軽い気持ちで「英語が好きだから」と通訳学校の扉を開くのは危険です。せっかく見つけた「大好きなもの」を好きでいられなくなる可能性がありますし、好きでい続けるためにそこから離れたとしても、「大好きな英語で挫折した」わだかまりはどこかに残ってしまいます。これは私の経験ではありませんが、ドロップアウトした元クラスメイト達に多く見られた傾向でした。
ですからずっと「英語が好き」でいるためには、正直私は通訳者という職業も通訳学校も軽々しく人にお薦めすることはできません。「英語が好き」で自信がある人ほど、
前回の記事や上記の内容を踏まえた上での注意が必要です。
ではこんなに辛い思いをしてまで通訳学校に通い卒業を目指す意義とは何なのでしょうか。「通訳学校とは語学好きの人間に夢だけ見せて金を巻き上げる詐欺商売だ」と言う意見もあるようです。恐らく通訳学校で相当痛い目に遭った人たちの意見でしょう。もちろん私はそうは思いません。現に私は七転八倒しながらも卒業しました。明確で厳しい進級基準は存在し、生徒はその基準で振るわれているにすぎません。
まず通訳学校に通うメリットのひとつは、しっかりとした通訳技術を身に付けられることです。独学で通訳技術を学び仕事をしている人も多くいらっしゃいますし、決してその人たちを否定するつもりはありませんが、大手通訳エージェントを母体とする学校として長年培ってきたノウハウを、現役通訳者の講師から学ぶことのメリットはとても大きいです。特に私がサイマルアカデミーに通ったのは20代前半の頃で通訳に関しては知らないことだらけでしたから、きちんと順を追って通訳技術を高めるために作られたカリキュラムで学べたことは、とても有意義でした。
通学のメリット二つ目は、たくさん練習してたくさん失敗ができることです。通訳者の仕事はぶっつけ本番一発勝負です。そのたった一回に失敗して次から声がかからなくなるリスクを常に負っています。もちろんそんな仕事ばかりではありませんが、絶対に失敗できない一回で失敗しないように、通訳学校の授業でたくさん練習して失敗するのです。第三者の目で自分のパフォーマンスを評価してもらうことで本番のパフォーマンスで気を付けられますし、授業とは言ってもかなりの緊張感の中でやるものですから、本番さながらの練習をすることができます。
三つ目をあえて書くとしたら、クラスメイトです。通訳学校には本当に様々な人が集います。クラスメイトたちから多くのことを吸収できるのも、学校という場ならではです。訓練生時代、私の成長の一番の糧となったのは優秀なクラスメイトたちのパフォーマンスでした。自分には無い語彙や表現、自分では気づけなかった発想の転換で出す訳、真似したくなる話し方や立ち振る舞いまで、良いと思ったものは何でも吸収しました。
以上の点から言えば、通訳学校は卒業しなくても通う意義は十分あると思います。しかし私は卒業することが重要だと考えています。その理由は、その後の自信の持ち方が違うからです。
卒業のとらえ方はこれもまた人それぞれだとは思いますが、少なくとも私にとっては私の通訳業を支える太い柱になっています。これがあるから少し怖くても新しい分野の仕事に飛び込んで行けますし、仕事中に困難に直面しても踏ん張れます。何があっても自分の実力を信じられる根拠、それが私にとってのサイマルアカデミーの卒業です。
そしてもうひとつ。
私はサイマルアカデミーでの通訳訓練中、英語を好きな気持ちはずっとありましたが、同時に苦痛に思うことも多くありました。時には苦痛の方が大きくて、好きなのかどうか疑問に思うこともありました。サイマルアカデミーを卒業して変わったのは、以前よりずっとずっと英語が好きになったこと、そして愛が深まったことです。これは通訳訓練をやり遂げた達成感が与えてくれたものです。
今なら満面の笑顔で自信を持って言えます。
「英語が大好きだから通訳者をしています」と。
つまり「英語が好きだから」で通訳学校を志す人の英語愛的な意味での本当のゴールは、卒業をおいてほかに無いのではないかと私は思うのです。
以上、2週にわたって通訳学校の真の姿についてお話ししました。誰かの役に立てばなどとおこがましいことは考えませんが、ご縁があってこのブログを読んでくださる方がいたら、「こんな人もいるんだな」くらいに気に留めていただけると嬉しいです。
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