こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
フリーランスとして仕事をしていると様々なクライアントに出会います。老若男女、社会的立場、専門分野を問わず、多くの人と関わることができるのはこの仕事の大きな魅力のひとつです。今回はその沢山の出会いの中で、私が「この人とまた仕事をしたい」と思ったクライアントの言動をご紹介したいと思います。
まず初めに、挨拶から最初の5分で通訳のパフォーマンスを少し良くできるかもしれない、ある秘訣をご紹介します。
それは、「山下さん」と名前で呼んでくれること。そんなの当たり前だと思いますか?それが残念ながらそうでもないのです。
フリーランスの通訳の場合、クライアントとの関係がその仕事の場限りになることはよくあります。ひとつの案件にかかる時間は案件によりバラバラですが、短いものでは1時間ということもあります。ほんの短い時間だからと思うのか、「通訳さん」としか呼んでくれないクライアントは珍しくありません。もちろんそれで機嫌が悪くなったり仕事に手を抜いたりするなどということはありませんし、通訳者として仕事に誇りを持っていますから「通訳さん」でも構わないのですが、やはり短い時間であっても名前で呼んで貰えると、ちゃんと一人の顔のある人間として一緒に仕事をしている実感が生まれます。その結果、訳にも少し温度が宿ります。通訳者とは話者の言葉を自分を通して聞き手に伝える役目ですから、人と人とのつながりを大切にしてくれるクライアントの通訳は緊張度が上がる反面、クライアントとの一体感を持って気持ちよく通訳ができることが多いと感じます。
私がまた一緒に仕事をしたくなるクライアントの次の特徴は、地味で目立たない通訳の技術や目に見えない細やかな準備に気づいてくれて、それを言葉にしてくれることです。通訳を使うクライアントの中には、未だに「英語ができれば通訳はできる」と思い込んでいる人が多くいます。これも実によくある話ですし、そういうクライアントに対して通訳の大変さを訴えるなどと子供じみたことはしません。(このブログでは思う存分書いていますが・笑)
通訳者がどれだけ努力してその技術を身に付けたかとか、事前にどれだけの時間を使って準備をしてきたかとか、そんなことはクライアントは知る必要はありません。お代はしっかりいただいていますので、契約時間内は必要なだけ通訳の能力を提供します。それでも尚、語学力だけではどうにもならない通訳技術や緻密な事前準備に気づいてもらえると、仕事の疲れも吹き飛ぶくらい嬉しくなります。
せっかくなので、言ってもらえて嬉しかった言葉をいくつかご紹介します。
【通訳技術編】
「10分も前の話を正確に記憶してるってすごいですね。」
「メモは少ししか取ってないのにどうしてそんなに覚えていられるんですか。」
「あそこのあの訳し方、良かったです。」
【準備編】
「訳語ひとつでもホームページを探して調べるんですね。」
「専門家でないのにそれだけの専門知識をどうやって覚えるんですか。」
「資料に全部訳を付けてきてくれたんですか。それいただけますか。」
どれもたまに思い出しては勇気と元気を貰う、大切な私の財産です。
最後に、そのクライアントと一緒に仕事をして良かったと思わせてくれる、魔法の言葉をご紹介します。
「ありがとう」
通訳者はクライアントからお金を貰って仕事をしています。それは重々承知の上で、仕事の最後に心を込めてこの言葉を貰えると、次に仕事ができる機会があるなら、今日よりもっと良い仕事ができるように頑張ろうという気持ちになります。また失敗をして少し落ち込んだ時には、クライアントのこの言葉に何度も救われました。仕事の関係にとどまらず、あらゆる人間関係を和ませてくれる大好きな言葉です。私自身、仕事だけでなく日々の生活全般にもたくさん使っている、大切な言葉です。
ここまでこの記事を書いてみて、これまでお世話になったクライアントの顔がたくさん心に浮かびました。今後また一緒に仕事をする機会がある人もそうでない人も、まだ出会っていないクライアントも含め、これからもお互いに気持ちよく良い関係で仕事ができるよう、通訳の技術だけでなく人間力も磨いて行かなければなと改めて思います。
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