こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
今回はタイトル通り、耳だけに頼る英語学習の落とし穴についてです。ズバリ最近人気の「聞き流すだけ学習法」をつついてみたいと思います。
先日テレビであるスポーツ選手の英語のインタビューの抜粋を観ました。英語での質問に何とか英語で答えようと頑張るその姿は素敵でしたし、素直に応援したいと思いますが、その選手の一言がとても気になりました。
“I getting better.”
一見、一聴、問題なく見えるこの一文ですが、正しくはこうなります。
“I’m getting better.(だんだんと良くなっています。)”
その選手が聞き流し学習法をやっているかどうかはわかりませんが、基礎文法を固めずに耳と実践のみに頼った英語学習の危うさを垣間見ました。
英語では単語同士の繋がりや言葉の省略の中で本来あるはずの音が半分ほどしか聞こえない、もしくは無音になってしまうことがよくあります。この”I’m”のM音もそのひとつです。耳がどんな微妙な音でも拾えるほどに発達しているのなら話は別ですが、英語に慣れていない日本人が未発達の英語耳でこれを聞いた時、Mの音を聞き漏らしてしまうことはとても簡単です。その結果、”I’m getting better”が”I getting better”になっても何ら不思議ではありません。むしろそれが当たり前だとすら思います。
しかし基礎文法がしっかりしていれは事情は変わります。「be動詞現在形+動詞のing形」が現在進行形の文法ルールだと理解ができていれば、たとえM音が聞こえなかったとしてもそこにMが入っていることに気づけます。気づけば聞こえます。例えすぐには聞こえなくても、少なくともMがあることにすら気づかない状態よりは、ずっと早くMの音に気づき耳でとらえることができるようになります。
一方で聞こえていない音があることに気づくこともなく、相手に通じるからと「これが正しい」と思い込み、誰にもその間違いを指摘されなければ、その人はずっとその間違った英語を使い続けることになります。耳が英語に慣れれば自ずと気づく可能性もゼロではありませんが、一度そこにチューニングが合ってしまい思い込みをしてしまった耳は意外と頑固です。通訳訓練時代にお世話になった先生の言葉を借りるなら、「耳は不要と判断した情報を入れない器官」だからです。
「沢山聞いていればそのうち耳が慣れて聞けるようになる」は、「聞けている音は無理なく聞けるようになるけれど、聞こえない音はずっと聞こえないままかもしれない」というリスクをはらんでいるのです。この落とし穴にはまらないためにも、補助としての文法知識は大きな武器になります。
文法と聞くと「書く」スキルにのみ必要なイメージを持つ人が多いようですが、文法は「書く」「読む」「話す」「聞く」全ての基本です。正しい文法が無ければ正しい文章を書けません。文法が理解できなければ文章を正しく理解できません。話す時に頭の中で英作文はダメなどと言う人もいますが、正しい文法が使えなければ自分の言いたいことを正確に伝えられません。そして英語の聞き取りが苦手な日本人の耳には特に、文法は聞き漏らしの補助として英語の理解を支えてくれます。
私は聞き流し学習法を全面的に否定するつもりはありません。あくまでも初心者向けではないというだけの話です。中級者以上になると、とにかく多くの英語に触れることが必要という時期がやってきます。そんな時に聞き流しながら様々な英単語や表現に触れることは、意味のあることだと思います。
聞き流しにつぎ込むお金と時間があるのなら、初心者はまず基礎文法を固めましょう。英語に近道なんかありません。しかし地道に順番を間違えずに努力を積み重ねれば、結果はついてきます。英語歴20年、通訳歴10年の私がここに断言します。
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