こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
今回は久しぶりに、「私が通訳者になるまでシリーズ」の更新です。サイマルアカデミー通訳者養成コース入門科(現通訳II)から通訳科(現通訳III&IV)への進級試験についてお話しします。
以前【私が通訳になるまで17】通訳学校と準備科3(メモなし通訳)でも説明した通り、サイマルアカデミーの教材には先生方やスタッフさんが吹き込んだ教材と、生のスピーチをそのまま使用した生教材とがありました。
準備科までは進級試験を含む全ての教材が吹き込みの教材でしたが、入門科では前半のみ吹き込み教材を使用し、後半からは進級試験を含め全てが生教材となり、教材の難易度が一気に上がります。スピードもテンポも一定で、各ポーションに情報やキーワードがバランスよくちりばめられた吹き込みの教材とは異なり、生教材は早口の人もいれば聞き取りづらい発音の人もいますし、情報量も常に一定とは限らず、回りくどい話し方をする人の話を訳す場合は頭の中で情報を整理しながら聞く技術が必要となります。いかにも「基礎固め」だった準備科時代に比べ、入門科ではよりプロとして通用する技術を求められるようになります。
進級試験に関しては私がサイマルアカデミーに通学していた当時、準備科と入門科ではお題を事前に教えてくれました。試験前にはそのお題だけを頼りにできる限りの情報収集を行い勉強し、試験に備えました。通訳科以降は進級に関係の無い中間試験であっても事前情報は一切ありませんでした。事前お題提供のサービスは入門科までです。
多少の事前情報があったとは言え、分かりやすく作られた吹き込み教材で行われた準備科の進級試験から生教材の入門科の進級試験への移行は、大きな変化でした。学期中に入る夏休みや冬休み等の長期休みの期間を差し引くと、1学期あたりの受講期間は約4ヶ月間です。入門科で生教材を使用するのは長く見ても後半の2ヶ月半程度。ストレートで進級を目指す場合、この短期間で生教材への耐性を付けなければならないのです。当時の私はこのスピードに追い付けず、初回の進級試験はあえなく失敗に終わっています。
また入門科から通訳科への進級試験は、数字で見ると最も過酷な進級試験でした。あくまでも「数字で見ると」です。内容はこの先容赦なく厳しくなります。これについては【私が通訳者になるまで15】通訳学校と準備科1(通訳基礎訓練)でも少し触れましたが、当時の各科のクラス数が、準備科(現通訳I)6、入門科(現通訳II)6、通訳科/前後期(現通訳III&IV)2、同時通訳科/前後期(現会議通訳I&II)1だったからです。余談ですが現在サイマルアカデミーで開講されている通訳準備コースは当時通訳者養成コース予備科と呼ばれていたもので、私が入門科に入った頃に新しくできたクラスでした。
このクラス数から見ても分かる通り、どんなに多くても入門科の3分の1の人数しか通訳科へは進級できなかったのです。とは言えこれは「最大3分の1」というだけであって、実際に進級できたのはそれよりずっと少ないのが現実でした。だからクラスを増やす必要がないのだと、当時入門科の総責任者だった先生が話していたのがとても印象的でした。
私が進級試験に落ちた最初の入門科では、進級できたのは私が密かに心の中で師とあおいだKさんと再履修組から1人の計2名。私が2度目のトライで進級になった時も、同じクラスで進級判定を受けたのは私以外では1人だけで、この時も2名でした。どちらも12名前後のクラスだったと記憶しています。(各クラスの定員は15名)
そして進級後の通訳科前期のクラスは10名いるかいないか程度のクラスでした。「席に空きがあろうとも、実力が足りなければ進級させない」というのがサイマルアカデミーに限らず通訳学校の基本方針です。つまり12名のクラスであっても進級者がゼロという可能性も十分にあるのです。
進級試験後は合否の発表の前に、試験の内容の復習を授業でするのが一連の流れでした。「今回は手ごたえあり」と思っていた2度目の進級試験の復習で自分のミスに気づき、深く落胆し、涙を堪えながら静岡行きの高速バスに乗り帰路につきました。最寄りのインターでバスを降りてから自宅まで20分弱の道のりを、悔しくて半べそをかきながら歩いたのを覚えています。
気持ちを立て直して合否発表のガイダンスへ行くと、最初に先生から聞かされたのは「山下さん、進級です」の言葉でした。「再履修」の宣告をされる準備万端だったので拍子抜けし、こみ上げてきた涙を必死に抑え込みました。ミスはあったものの、全体的には悪くない出来で、日ごろの勉強の成果がよく出ていたとの評価でした。
ガイダンスでは先生からこう言われました。
「まだまだ今のレベルでは上で苦労します(断言)。でもこの調子で頑張ってください。」
こう先生に断言された通り、進級を喜んだのも束の間、通訳科進級後は苦労という言葉で片付けられないほど七転八倒の日々でした。通訳科についても、今後また少しずつ書いて行きたいと思います。今回はこの辺で。
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