こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
2017年も終わりと言うことで、昨年に続き「今年の英単語」を選んで今年を締めくくりたい思います。ちなみに世間に目を向けた昨年とは異なり、今年はかなり個人的な目線での選択です。
私が選ぶ今年を象徴する単語はこちら。
Excellent(エクセレント)
今年は私にとって通訳業10周年の節目の年でした。それと同時に、大厄の年でもありました。最初から通訳の仕事が沢山あったわけではありませんでしたが、それでも何とか通訳者として10周年を迎えることができてとても嬉しいのと同時に、その安心感から気が緩み大きな失敗をしてしまわないようにと、どの仕事にも今まで以上に気を引き締めて臨んだ年でした。
そんな中で、今年ある仕事の訪問先でかけていただいた言葉。それが”Excellent”です。
ある逐次通訳の案件でクライアントの訪問先(非英語圏)で通訳をした時のことでした。その訪問先には私も過去に何度かご一緒したことがあり、先方とも顔なじみでした。それでもあまりお会いする機会のない先方の代表の話を訳すのは、独特の緊張感があります。と言うのも、代表は話す時には公式言語として英語しか使用されませんが、ご自身の母国語以外に実は日本語も完璧に理解できる方なのです。
通訳を使い慣れている方なので、いつもは多少長くなることはあっても訳しやすいタイミングを見計らって話を切ってくださいます。しかし今回は出だしだけ、いつもの2~3倍の長さで話されました。かなり厳しいトーンでクライアント側を叱責していたため、途中で切りたくなかったと言うのが主な理由だと思われます。普段から低めの声が更にうなるように低くなり、聞き取りにかなり集中しなければならない状態。どんどん長くなる話にドキドキしながら、耳に集中するためにメモをできるだけ減らし、リテンション(記憶力)を頼りに話を追って行きました。やっと代表が話し終えたところでメモ帳を数枚めくり戻し、メモを見て順番に記憶を辿りながら訳し始めました。強い感情のこもったメッセージだったため、そのニュアンスを損なわないように細心の注意を払いました。集中と緊張から、代表が一言一句内容をチェックしているなどということはその瞬間は忘れていました。
長い話を何とか訳し終え、視線をメモ帳に落としたまま、さて次、とペンを握り直したその時でした。
“Excellent. You didn’t miss anything.”
クライアント側へのお叱りの最中などという思いもよらぬタイミングで、思いもよらぬ言葉が飛んできました。
「素晴らしい。何も落とさなかったね。」
この言葉から察するに、かなり長く話した自覚があったようです(苦笑)
そして何より驚いたのは、これが代表からの言葉だったことです。この方はこれまでお会いした数回、私にも私の訳にも別段興味を示されたことはありませんでした。常に淡々と淡々と、コミュニケーションのツールとして通訳者を扱う方でした。この方が私に話しかける時は常に通訳者としてであり、私自身に直接語り掛けてくださったことはあいさつ以外ではほとんどなかったのです。
これまでの経験上通訳者に労いの言葉をかけてくださるのは、大抵が通訳に興味を持ってくださる方です。誰が通訳に興味を持っているかというのは、仕事をしている中で大体空気で感じ取ることができます。興味がなくても声をかけてくださるのは、通訳者の手配の窓口や担当となった方くらい。そのためこの時、その場で一番通訳者に興味が無かったであろう方からの突然のお褒めの言葉に、私は一瞬ハトマメ状態になってしまいました。そんな私に対して代表が見せてくださった一瞬の笑顔につられて私も笑顔になり、”Thank you, sir”と何とかお返事をすることができました。ほんの数秒間の出来事でしたが、本当に嬉しいサプライズでした。
通訳者として仕事をしてきて10年間、クライアントや関係者から嬉しいフィードバックを少なからずいただいてきました。そのどれもが私の宝物です。そんな中でもこんなにインパクトのあるシチュエーションと言葉は初めてで、この一年を締めくくるのに、そして今後の通訳キャリアに向けて気を引き締めるためにも、間違いなく最高の英単語です。この10年間で一番の、「キマッた」瞬間でした。
“Excellent”
この美しい言葉に恥じぬよう、11年目以降も精進して参ります。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。
コメントやご質問はお問い合わせページからお願いします。