こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
英会話に関して、「文法や発音を気にしすぎるから日本人は英語が話せない」「通じれば良いんだから文法も発音も気にしなくていい」という日本人の声を多く耳にします。これは今に始まったことではなく、少なくとも私が英語を勉強し始めた20年前にはこれが日本人が英語で話すための定説のように言われていました。
私はこの間違いだらけの「定説」を真っ向から力強く否定します。
「そりゃ同時通訳なんて英語のプロだし、できる側の人間にはできない側の人間の現実なんて分かるわけない」と言う人もいるでしょう。しかし私にも「できない側の人間」だった頃がありました。小4から3年間英語塾に通った末に英検5級に落ちた頃や中学に入学したばかりの頃は、私も英語はできませんでした。
私は「できない側」から「できる側」に20年の歳月をかけて旅をしてきた人間です。だからこそ、「ずっとできない側にいる人」にも、英語環境に恵まれて「最初からできる側にいた人」にも、見えないものを見てきました。そしてその結果、先述の「定説」は成立し得ないという結論に達しています。
その結論に基づきどんな学習法を薦めているのかを手っ取り早く知りたいという方は、ぜひ自著《初心者のための英語学習ガイド~「英語をしゃべりたい!」と思ったらいちばんはじめに読む本》をご参照ください。文字通り一から英語を積み上げる方法を自身の経験に基づき提案しています。
私が自信を持ってこの「定説」を否定する根拠のひとつをご紹介しましょう。
私は16歳の頃、交換留学生としてアメリカへ留学しました。留学初日、事前研修の地であるカンザス州トピカに着いて最初の出来事は、「事前に知らされていたホストファミリーと違う人たちが私を迎えに来ていた」ことでした。
事前資料によるとこのトピカでの私のホストファミリーは20代の若い夫婦。しかし目の前にいるのは40代後半から50代と思われる夫婦。初めての長時間フライトに初めてのアメリカと慣れないこと続きで疲労と緊張がピークだったところに予想外の事態が起こり、パニックで体が固まりました。
事前研修には同じプログラムの留学生数十人が参加していて、その数十人が一斉にホストファミリーと対面するため、お世話役のコーディネーター(米国人)もひとりひとりに構っている暇はありません。コーディネーターの手助けなしに、自力で事情を把握しなければなりませんでした。
高校入学後にすぐに英語を含む全ての勉強でつまづき、当時の私の英語力は中学英語止まりでした。しかし高校受験のために教科書を丸暗記した中学の英語だけは、完璧にマスターしていた自信がありました。だから大丈夫だと自分に言い聞かせて何とか気持ちを落ち着かせ、私を迎えに来たと言う人たちの話を聞きました。
その人たちは私に分かりやすいようにゆっくりと、同じ内容を私が分かるまで繰り返し伝えてくれました。すると数回目で、「あなたのホストファミリーは友人の結婚式で今州外にいる。3日後に彼らが帰って来るまであなたはうちで預かることになっているの」と言っていることが分かりました。
So, you’re not my host family.
じゃああなたたちは私のホストファミリーではないんですね。
Right.
そうよ。
And my host family is not here. They will come back three days later.
私のホストファミリーは今ここにいなくて、3日後に戻ってくる。
Yes.
そう。
I will stay at your house until they will come back.
私はそれまであなたたちの家に滞在する。
That’s right.
その通り。
I see. Thank you.
わかりました。ありがとうございます。
OK, let’s go!
OK、じゃあ行こうか!
事情が分かってからこのような確認のやり取りをし、このホストファミリー(仮)の車で郊外の家へと向かいました。この時使った単語も文法も、全て中学英語。それでも100%の意思疎通ができたことに安堵したと同時に、感動で体が震えました。
この時に痛感したのです。たとえ知識としてだけでも、文法と発音を知っていることの大切さを。私はリスニングもスピーキングもほとんど練習することがないまま渡米しました。しかし留学初日でこの話を聞き取ることができたのは、知識として英語にどんな音があるのかを理解していたからです。そして状況確認の受け答えができたのは、どうすれば「伝わる音」を出せるのかを知っていたからです。そして短時間で内容を理解できたのも、即座に確認の質問の文章を組み立てられたのも、文脈の理解と構成に必要な文法知識が備わっていたからです。この時点で文法と音に関する知識がなかったらどれだけの労力と時間がかかったかと考えると、今でも背筋が寒くなります。
長くなったのでここで切ります。次回へつづく。