こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
今年もこの時期になりました。「同時通訳者Erikaの今年の英単語」、今回で3回目です。1回目の2016年は世相を反映した”Populism(ポピュリズム)”でした。2回目の昨年はその年に私が通訳の仕事でかけていただいてとても嬉しかった”Excellent(素晴らしい)”でした。
3回目となる2018年は、”Footprints(足跡/そくせき)”です。
2018年を振り返るとこの年は、私がこれまで積み重ね育ててきたものが最初の収穫期を迎え、小さなものから大きなものまで確かな足跡、”footprints”を残すことができた年でした。
今年私が残した最も大きな”footprint”はもちろん、自著《初心者のための英語学習ガイド~「英語をしゃべりたい!」と思ったらいちばんはじめに読む本》の執筆と出版です。昨年末にこのブログを基にした本の出版のお話をスモール出版様よりいただき、今年の年明けから毎日必死で原稿に向いました。一年て早いなぁ...笑。
今まで私が英語や英語学習について蓄えてきた知識を全て並べて整理して選んで文章という形で表現したこと。それを本という形にして世に送り出したこと。どちらも私にとって大きな出来事でした。そしてこの本は日本の中学校における英語教育を全面的に支持し、学生・社会人を問わず英語学習におけるその利用方法を説いた本ですので、日本で英語教育が続いて行く以上、時代を選ばずあらゆる世代の人達のお役に立てる内容になっていると自負しています。そのためこの本はこれから私が年齢を重ねこの世を去った後も誰かの手に残って行くものなのだということを思うと、とても感慨深いです。
以前の記事にも書いた通り私と主人は大きな年の差のある夫婦です。そのため子供を持つということは私たちにとって現実的な選択肢ではなく、私も主人も強く望んでいないということもあり、今後私が子供を持つことはないと思っています。しかしながらこのように本の出版によって私の人生の証を後世に残せる形にできたことは、血のつながった子孫を残すことと同じくらい尊いことだと感じています。
本の出版以外での”footprint”としては、今年受けたある仕事での出来事が強く印象に残っています。
私はこの秋、ある大学に招かれたアメリカ人教授の講義の通訳をしました。事前準備が大変な仕事ではありましたが、この仕事では十数年間勉強を続け少しずつ積み上げてきた知識が驚くほどに役に立ち、100%の仕事ができたと初めて自分自身で感じることができました。反省する箇所が皆無だったわけではありませんが、通訳業11年目にして初めて最高の自己評価をつけられた仕事でした。
通訳に関する記事では何度も書いてきた通り、語学力や通訳技術以外で訳の精度を決定付けるのは知識量です。しかしながらこの知識量というのは語学力や通訳技術と比べるとその重要性を実感することが難しいというのも事実。私も通訳講座の生徒さんたちに「焦らずとにかく知識を増やして」と口を酸っぱくして言っていますが、それが通訳にどう影響するのか、ピンときている人はまだ全体の半分にも満たないという印象です。
知識の重要性を実感できない理由のひとつが、知識の点を線で結ぶことが難しいということです。私も初めのうちはこれができず、必要な知識を上手く訳に反映させることができませんでした。しかしながらテレビ、新聞、雑誌、ネット等を使い日々少しずつ知識量を増やして行くにつれ、点が線になり、線が面になり、その知識のかたまりが伝わりやすい訳に繋がることを様々な場面で体験してきました。ですから経験者として、「知識がとにかく大切」といつも生徒さんたちに伝えるようにしています。ただし元々かなりの知識を持っている人の場合を除き、知識の蓄積と活用には時間がかかるのもまた現実です。知識の蓄積も他の学習同様に、地道にコツコツ以外の方法はありません。
この”footprint”は私が自分自身の中に残すことができた「足跡」です。「通訳者にとって役に立たない知識などない」という信念の下、毎日欠かすことなく積み上げてきたものの結果ですし、通訳の指導をする身としても大きな自信となる収穫でした。そして今後は指導を通して、生徒さんたちの中に残して行くことのできる”footprint”だと思っています。
さて、この”footprints”の記事を書くにあたりこの言葉を検索してみたところ、とても興味深いものを見つけたので最後に共有したいと思います。英語で”footprints”と検索すると、こんな検索予測が出てきました。
“Take only memories. Leave only footprints. / Chief Seattle”
「思い出だけを持って行け。足跡だけを残して行け。/チーフ・シアトル」
調べてみたところチーフ・シアトルとは、ネイティブアメリカンのスクアミッシュ族とドゥワミッシュ族の長だった方で、この言葉は彼の残した格言のひとつのようです。同じ名前を持つワシントン州のシアトル市は、彼にちなんで名づけられたとのこと。自然とネイティブアメリカンの土地を大切にしつつ、ヨーロッパ系入植者との共生を模索していた方だったそうで、これ以外にも多くの格言が残されているようですが、チーフ・シアトルも彼の格言もあまりにも有名で多くの人によって広められたため、オリジナルの文章がどうだったのかはもう分からないものが多いのだとか。そのためこれも、「こういう内容のことを言い遺している」くらいのもののようです。
それでも今尚、これは自然保護活動をする人達をはじめ多くの人達が好んで使っている言葉のようで、
「(自然保護のため、その場にある植物や石などの資源を持って行かずに)思い出だけを持ち帰って。(そしてごみは残さず持ち帰り)足跡だけを残して行って。」
という意味で使われているようです。とても的確で素敵な表現ですね。
以上、"footprints"のトリビアでした、笑。
2018年、これまで自分のしてきたことの”footprints”を初めて実感を持って残すことができ、事ある毎に「良い年だなぁ」と言っていた幸せな年でした。2019年は今年残した”footprints”を糧にどんどん新しいことに挑戦し、新たな道を切り拓いて行く年にしたいです。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
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