こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
『私が通訳になるまでシリーズ』で書いてきた通り、私は20代の頃に通訳学校サイマルアカデミーに通い、逐次通訳と同時通訳の訓練を受けました。細かい数字まで書くと、21才から26才にかけての4年半のことです。今回は20代で通訳学校に通うメリットについて、私の想い出話も織り交ぜながらお話しします。
私が通ったサイマルアカデミーでは、生徒のメインの年齢層は働き盛りの20代後半・30代・40代で、更に子育てが一段落して改めて通訳のキャリアのスタートを目指す50代の方々も一定数おられました。この中で社会人経験・人生経験ともに浅い20代前半は少数派でした。
経験の浅さというのは通訳訓練にとっては非常に大きなハンデとなります。通訳訓練を受ける上では基礎訓練の段階であっても、かなりの知識量が求められます。そしてその知識を効果的に使うためには様々な経験が必要となるため、社会的にも人生的にも経験不足のまま通訳訓練を開始するとその差を勉強量で埋めなければならず、とても大変なのです。
このため「ある程度社会での経験と様々なことに関する知識を得てから通訳学校に通う方が良い」というのがよく聞く意見です。私もその通りだと思いますし、これを否定する気持ちは全くありません。実際サイマルアカデミーに通学していた頃は、「もっと色々経験してから来るべきだった」とよく思いました。
しかしながら、20代前半だからこその強味があったこともまた事実です。
その一つが、体力です。先ほど「経験の差を勉強量で埋めなければならずとても大変」と書きましたが、それだけの勉強量をこなせる体力があるというのは若さの強味です。私も実際若い体力が許す限り、毎日勉強に打ち込みました。英語講師のアルバイトをしながら、静岡から新幹線で当時新宿にあったサイマルアカデミーに週2日通ったり、毎日のように深夜まで勉強をしたり、当時はかなり無茶をしていたと思います。30代になりあの頃のような無理がきかなくなったと感じるようになって気づいたことでもあります。
もう一つは、若さゆえの記憶力の良さです。勉強したことを記憶するための力はもちろんのこと、通訳者にとって非常に重要な基礎技術のひとつであるリテンション(短期記憶保持力/聞いた話を正確に記憶する能力)に繋がる大切な力です。
特にリテンションについて言うと、オンラインで通訳を教えるようになり、これまで様々な生徒さんを見て来ましたが、やはり20代前半の記憶力と反応の良さはずば抜けています。この頭がまだ柔軟な時期にリテンションを鍛えることで、年を重ねても安定して使えるリテンションの力を育てることが可能なのだと、自身の経験と教える側の経験からそう感じています。
ただ私の通訳講座の生徒さんたちの中でもやはり20代は少数派なのでこの点について補足(フォロー?)をしておくと、若くなければリテンションの力を育てることができないということではありません。リテンションの力というのは単なる記憶力だけではなく、知識や経験に左右される部分も大きいため、年齢を重ねてからリテンションを鍛える際には後者の知識や経験をフル活用して、年齢に合った形で鍛えて行けば良いのです。これから通訳訓練を始める方、現在訓練を受けている方はくれぐれも、この話だけを聞いて年齢を理由に諦めたりしないでください。
そして20代前半で通訳学校に通う一番のメリットは、年齢も職業も色とりどりなクラスメイトとの出会いです。通訳学校という場では、普段なかなか出会うことのない人生の先輩方とクラスメイトとしてフラットに付き合うことができ、授業の中でも外でも様々なことを学べます。(フラットとは言えもちろん敬意を持って接することが大切です。)
私はサイマルアカデミーで人生のそれぞれの段階において目標にしたいと思える人たちと出会うことができ、人生の先輩方から実に多くのことを学び吸収しました。20代のうちから「なりたい50代像」があるというのは、キャリアや人生を考える上でとても心強いことですし、それぞれの年齢における目標や楽しみ方を考えることができ、年を重ねるのが楽しみになります。これはサイマルアカデミーで得た、私の人生の財産です。20代という若いうちにこのような経験ができたことを、とても誇りに思っています。
以上、20代で通訳学校に通う大変さとそのメリットについてでした。これから通訳学校に通おうかなと悩んでいる20代、または通訳に興味のある10代の方々にも、参考にしていただけたら嬉しいです。