こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
オンライン通訳講座を受講してくださる方々に対し、私の講座の継続受講ではなく通訳学校への通学をお勧めすることがあります。商売として講座をやっている以上、生徒数は一人でも多い方が良いのになぜそんなことをすすめるのかと思われるかもしれませんが、これにはいくつか理由があります。
まずは通訳講座自体、私が本業の通訳・翻訳業の合間にやっているものであること。そして元々通訳講座は「時間や場所など様々な理由から物理的に通訳学校に通えない人たち」のために開講したものであること。
更に私にとって何よりも重要なのは、「受講生のためになるレッスンとアドバイスを提供すること」だからです。
そのため物理的に通訳学校に通えない人を除いては、私のレッスンよりも通訳学校での訓練の方が有益であると判断した場合、通訳学校をすすめています。
具体的には、基礎訓練には個人レッスンが、それ以上の通訳訓練には通訳学校が適していると私は考えています。今回はそれぞれのメリットとデメリットを整理し、私がこのように考える理由を知ってほしいと思います。
✔ オンライン個人レッスンのメリット
- レッスン時間のすべてが自分の時間
個人レッスンではそのレッスン時間のすべてが自分ひとりのものです。自分の好きなタイミングで好きなだけ質問をすることができますし、腑に落ちない箇所があれば納得がいくまで講師の解説を聞いたり検討したりすることができます。またリテンション&リプロダクション(聞いた話を正確に記憶して繰り返す訓練)や要約などの基礎演習を丁寧に自分のペースで進めることが可能です。
- 個々人のレベルとニーズに合ったレッスン内容
英語レベル、知識量、通訳スキルなど、通訳に必要なスキルのレベルは人によって異なります。個人レッスンではその時々のレベルに合った教材を使い、改善点のレベルアップに必要な演習をバランスよく取り入れた構成のレッスンを受けることが可能です。
- 場所と時間の柔軟性
オンラインレッスンでは教室へ行く必要がないので、時間や場所に縛られることなくレッスンを受けることが可能です。もちろん開講スケジュールの枠の中から選ぶことにはなりますが、毎週決まった曜日の決まった時間に遠くの教室まで通う必要はありません。私の講座の場合受講回数も1回から制限は設けておらず、受講頻度も受講生の続けやすいペースで設定することができます。
✔ 通訳学校のメリット
- たくさんの人の通訳を聞いて学べる
多くのクラスメイトと共に学ぶことの一番のメリットは、自分以外の人の訳をたくさん聞けることです。通訳学校の授業では一般的にひとりひとり順番に指名されながら訳を披露して行きますが、自分の順番でない時にはクラスメイトの訳を聞き、単語や表現、訳し方などを学ぶことができます。これはグループレッスンの大きなメリットと言えます。
- 緊張感
通訳学校の授業では講師の先生方が意図的に緊張感を演出します。またクラスメイト達の存在は更に緊張を高める材料となり、そんな本番さながらの緊張感の中で演習を行うことになります。緊張に慣れること、緊張との付き合い方を学ぶことは本番の通訳業務の際にも非常に重要な点であるため、これも通訳学校で訓練を受けるメリットです。
- 一緒に学ぶクラスメイトの存在
通訳学校では1クラスが約10~15人程度で構成されています。共に学ぶクラスメイトの存在は刺激になるだけでなく、モチベーション維持の助けにもなります。また人脈を広げる貴重な機会でもあります。
追記:ただし残念ながら、現在主流のオンライン授業では休み時間があってもクラスメイトとのコミュニケーションがとりづらく、このメリットを十分にいかしきれないと言えそうです。
✔ オンライン個人レッスンのデメリット
- 講師以外のお手本を聞けない
通訳学校でのメリットのひとつとして挙げた「たくさんの人の通訳を聞いて学べる」は、個人レッスンではできません。これをカバーするために私自身、ひとつの表現に対して複数の訳し方の提案をするなど工夫をしていますが、1人では限度があるのが現実です。
- 緊張度合いが低い
1対1のレッスンの場合、複数回受講すると受講生が講師との距離感に慣れてしまい、通訳学校ほどの緊張感を出すことは困難です。これは講師である私自身の性格の問題もあると思います。訓練時代自分がどれだけのプレッシャーの中で授業を受けていたか、そしてそれがどれほどに苦しかったかを憶えているため、なかなか強いプレッシャーをかけられないのが悩みの種です。
✔ 通訳学校のデメリット
- 基礎訓練では手持無沙汰な時間が多い
メリットでは「たくさんの人の通訳を聞いて学べる」と書きましたが、これは通訳演習がメインとなる中~上級クラスの場合で、リテンション&リプロダクションや要約がメインの初級クラスでは、自分の番以外は手持無沙汰となってしまうことがあります。例えば授業時間が2時間として、15人のクラスの場合、生徒1人あたりに使える時間は10分もありません。多くの通訳を聞いて学べるレベルのクラスであればそれ以外の時間を有意義に過ごせますが、リテンション&リプロダクションのように言葉を繰り返すだけの訓練では有意義な時間とは言い難いのが実情です。
- 自分のレベルやニーズにぴったりと合った授業を受けることはできない
通訳学校ではレベルに応じてクラス分けがされていますが、同じクラスでも生徒のレベルには差があるものです。従って自分のレベルにぴったり合う教材ばかりと言うわけにはいきません。簡単すぎるものもあれば、難しすぎるものもあり、必ずしも効率的な学習ができるとは限りません。
- 緊張感がありすぎる
これをデメリットとするかどうかは人それぞれですが、実際過去に通訳学校で訓練を受けたことのある受講生からは、「通訳学校の授業は緊張感がありすぎる。あそこまでのレベルも緊張感も求めていない」という声を聞きます。一般的に通訳学校のカリキュラムはどんな内容にも対応できるフリーランスの通訳者を育てるためのものなので、「仕事でたまに必要なので基礎的な通訳技術を少し学びたい」という人にとっては気持ち的について行けない場合もあるようです。
✔ 基礎訓練には個人レッスン
通訳の基礎訓練については先述の通り、自分のペースで丁寧に進めることができること、またグループレッスンでは時間の使い方が有効とは言い難いことから、個人レッスンがおすすめです。
私は基礎訓練をサイマルアカデミーで受けましたが、やはり振り返ってみると、授業の充実度は上級クラスのそれとは比較できず、もっと効率的な学び方があったと感じていました。また私がサイマルアカデミーで1年半ほどかかった基礎技術の習得をその半分ほどの期間でこなす受講生たちを見てきて、この感覚は今やはっきりとした確信に変わっています。
通訳に限らずすべてのことに共通しているのは、基礎固めが上達への近道であるということです。
通訳の基礎技術であるリテンション&リプロダクション(聞いた話を正確に記憶して繰り返す訓練)や要約は、どのようなレベルの通訳であっても必須の技術です。
発言を正確に記憶できなければ正確な通訳はできませんし、情報に優先順位をつけながら話を整理して聞くことができなければ、肝心な情報が伝わらない通訳になってしまいます。
通訳者を目指す人は、まずはしっかりとした基礎固めから始められることを強くおすすめします。
✔ 基礎ができてからは通訳学校
こちらも先述の通り、基礎ができたら同じ志を持つ仲間とともに学ぶのがおすすめです。
自分とは異なる経験や知識を持っている人たちの訳や表現、手法から学ぶことは実に多く、いざという時に使える引き出しを増やしてくれます。また通訳技術の習得は時間がかかるものですから、時に壁にぶつかったりスランプに陥ったりするでしょう。そんな時に刺激しあえる仲間の存在はとてもありがたいものです。
通訳学校に在籍中、または卒業後にも、一緒に学んだクラスメイト経由で仕事のオファーが来ることもあります。フリーランス同士のつながりを作る上でも、通訳学校を有効活用すると良いでしょう。
以上、それぞれのレベルに合った学び方を選ぶ上での参考にしていただけたら幸いです。
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