こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
「通訳の時に緊張しないためにはどうしたら良いですか?」
「緊張して本来の力が出せなかった。普段通りなら上手くできたはず。」
上記はオンライン講座の受講生からよくいただく質問・コメントです。今回は「通訳と緊張」をテーマにお話しします。
✔ 通訳は緊張するもの
上記のような質問やコメントを受けた場合私は、受講生が緊張が原因で大変な思いをしていることは理解した上で、心を鬼にしてこう答えます。
「通訳は緊張するものです。」
残念ながら、全く緊張せずに通訳をすることはできません。私は2007年に通訳の初仕事をしてからこの秋で丸14年になりますが、今でもやはり通訳をする時には緊張します。これは新規の案件でも慣れた内容の通訳でも同じです。
以下は、サイマル・アカデミーの通訳科後期(現通訳IV)でお世話になった長部三郎先生の言葉です。
「我々通訳者はね、緊張感を力に変える特殊能力を身に付けなければいけません。」
長部先生はかつてアメリカ国務省で通訳者を務められた方です。これほどの大ベテランの先生でさえも「通訳は緊張する」ことを前提に語られています。
そもそも通訳者は誰かの大切な言葉を預かり、それを受け取る側に正確に、それも別言語で伝える作業を任されているのですから、緊張感なしで通訳すべきではありません。それだけの責任を負っているのですから、緊張感がついてくるのは当然のことです。
✔ 「緊張して上手くできない」は「それが本当の実力」
厳しい言い方をすると、「普段通りならできた」は非常に的外れな言い訳です。緊張下で発揮できる力だけが「本当の実力」であり、「緊張して上手くできない」のであればそれがその人の通訳者としての本当の実力なのです。通訳者を志す人は、まずこの事実を正面から受け止める必要があります。
先述の通り、通訳をする際に緊張しないというのは責任の放棄にも繋がります。大切なのは緊張状態で良いパフォーマンスができるようにどれだけの訓練ができるか、また緊張と正面から向き合い、いかに上手い付き合い方を身につけられるかということです。
✔ 緊張と集中力は表裏一体
緊張と言うとネガティブなイメージが先行しがちですが、必ずしも悪いものとは限りません。特に通訳に必要な深い集中力には、緊張が欠かせません。緊張は上手く使うことができれば普段では想像もできないほどに集中力を高め、同時に通訳の質を高めてくれます。
そしてこれこそが先述の長部先生の言葉の意味するところです。通訳をする際には緊張感をなくすことはできませんが、上手く利用できるようになれば、心強い味方にすることができます。
✔ 緊張感との付き合い方
緊張で集中できなくなってしまう人の多くは、脳内のノイズが多いのが特徴のひとつです。細かい失敗に気を取られたり、周囲の目や耳を必要以上に意識してしまったり、それで更に緊張し、更に集中できなくなるという負のループにはまりがちです。
本当に集中している時というのはこういうものに気を取られることはありません。目の前のメッセージを理解し、訳し、伝えることだけに集中しています。
集中の邪魔をする脳内のノイズを減らすためにはまず、「目の前のことだけに集中する(全集中!)」と自分に言い聞かせることから始めましょう。
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またどんなに周囲の目や耳を気にしても、その時点での実力が急に伸びることはありません。むしろそれが足枷となり、力を発揮しきれないことがほとんどです。どんなに気にしても無駄なことなら(その時は)気にしないと開き直ることも大切です。ただし終わったあとには反省すべき点は十分に反省することも忘れずに。
これもよく受講生に言うことですが、“Forget the failures. Keep the lessons.(失敗は忘れて。教訓を忘れずに。)” の精神が大切です。
✔ おわりに
「緊張感を力に変える特殊能力」
冗談のように聞こえますが冗談ではありません。この特殊能力を身につけられるだけの強い精神力が求められるのが通訳者です。
緊張を恐れずに、受け止めて、自らの力にして行けるようにメンタルの鍛錬を、また極度の緊張状態でも普段と同じ力を発揮できるように技術の鍛錬を、日々積み重ねて参りましょう。