こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
「頭の中で英作文をしていては英語は話せない。」
「英語は英語で聞いて英語で理解して英語で考えなければ使いこなせない。」
これらは巷でよく聞く、「英語ができるようになるための極意」です。今回はこれについて考察します。
✔ 英語での理解・思考も英作文もどちらも必要
私は「頭の中で英作文はダメ」とは思っていません。頭の中での英作文はむしろスムーズな英語の運用に必要なことだと考えています。しかしそれと同時に「英語を聞いて英語で理解して英語で考えて話す」ことも必要だと考えています。矛盾していると思われるかもしれませんが、そうではありません。なぜならこれらは私の経験上、話者の英語レベルと会話の内容(難易度)によって使い分ける必要があるものだからです。
✔ 「英語は英語で聞いて英語で理解して英語で考えて発言する」の限界
「英語は英語で聞いて英語で理解して英語で考えて…」上級者であるほど、これが英語を身につける上での正解と考えている人は多いでしょう。旅行や買い物での会話など、一般的で簡単な内容についてはそれが効率的であることは確かです。しかしながら話の内容が複雑になり、正確な理解と深い思考が必要となる場合、その「正確な理解と深い思考」ができるのは幼少期から現在に至るまですべてを学ぶ基盤となってきた母語の力、すなわち日本語の力です。
幼少期から常に生活の中心にある母語(日本語)と、後からそこに入ってきて母語の代わりにはなり得ない外国語(英語)は、どちらも言語であるとは言えそもそもの性質が異なるものです。このため、日本語と全く同じように英語を使うことなど通訳者である私にも無理なことだというのが、通訳歴14年の私の結論です。私の経験上プロの通訳者というのは、日々の努力によってその差をギリギリまで縮めているにすぎません。
✔ 思考言語はコミュニケーションの難易度次第
下の図ではコミュニケーションのレベルを次の4つに分け、日本語と英語を並べました。
1.必要最低限の意思疎通ができる
2.日常生活でのコミュニケーションがスムーズにできる
3. 複雑な話を理解しそれに対して自らの考えをまとめて発言できる
4. 言語使用において困ることはない
この図はあくまでも私の感覚を基に作ったものです。私はこの4段階で考えると日本語も英語も「ほぼ困らずに使える」と言えますが、そこにも微妙な違いはあり、この英語で足りない部分はやはり日本語で理解し思考し、それを英語に変換しています。
英語を日本語と同じように使うこと、すなわち英語のコミュニケーションを英語のみで完結できるのは、その英語力の及ぶ範囲内に限られます。つまり日本語力が4の人の英語力が2しかなければ、「英語で聞いて英語で理解して英語で考えて…」は日常生活レベルまでが限界なのです。
そして日本語の力が目標値に達していない限り、そのレベルの英語力を身につけることはそもそも不可能です。例えば日本語力が3の人が4の英語力を身につけることはできません。
つまり話の内容の難度が上がれば上がるほど、その話を英語でするために必要なのは、物事をより深く理解し思考するための母語(日本語)の力と、相手の発言の意味を理解できるレベルの英語力、そして自分の考えを英語で表現できるレベルの英語力ということになります。
✔ 「英語で必要なスキル」は英語で、「日本語の方が得意なスキル」は日本語で強化する
以上の理由から私は、英語でのコミュニケーションにおいて「英語が必要なパート」と「日本語でやった方が効率的なパート」を分け、それぞれに必要な力を強化することをおすすめします。また「訳す」という作業をはさむことで、言語間のスムーズなスイッチングを強化し母語の力を英語のコミュニケーション応用できる力を伸ばすと良いでしょう。
● 英語が必要なパート=聞く&話す
英語で話を聞き発言するために必要な文法、構文、語彙、表現などの強化。
● 日本語でやった方が効率的なパート=理解&思考
聞いた内容を深く正確に理解し思考するために必要な読解力の強化。
母語である日本語をベースとして英語を使うことで、英語でのより高度なコミュニケーションが可能となります。
✔ おわりに
英語に英語で反応する力、英語に日本語で反応する力、どちらもスムーズなコミュニケーションには欠かせないものです。この記事があなたが目指す英語力の習得のために何が必要かを知るきっかけになれたら幸いです。
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