こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
今年も年の瀬が迫ってきました。この年末年始の休み中にしっかり勉強して来年の飛躍に繋げたいという人も多いでしょう。
そこで今回は、通訳技術の中でも特に多くの人を悩ませるリテンションの自主練習方法と練習用動画を紹介します。
※この記事はこれまでこのサイトで紹介してきた内容を使いやすいようにまとめ直したものです。
✔ リテンションとは
リテンションは短期記憶保持力とも呼ばれ、聞いた話を正確に記憶する技術です。正確な通訳のためには正確な記憶が不可欠です。
頭の中だけで処理できる情報量を増やすことで、最小限の量のメモで通訳ができるようになります。これによりメモのとりすぎによる聞きもらしや、「メモを見ても何の話かわからない」という状況を回避することができます。
またメモへの注意を最小限に抑えることでより聞き取りと理解に集中することができます。
✔ リテンションの練習方法(リプロダクション)
リテンションの練習方法は主に、リプロダクションとセットで行います。リプロダクションとは、聞いて覚えた内容(リテンションした内容)を正確に再現する(リプロダクション)作業です。日本語で聞いたものは日本語で、英語で聞いたものは英語で繰り返します。
この動画ではディクテーションアプリSpeechnoteを使ったリテンション&リプロダクションの自主練習方法を解説しています。やり方は以下の通り。具体的な操作方法などは動画をご参照ください。
【準備】ヘッドセットを装着。
1.ブラウザ上でSpeechnoteにアクセスし、使用言語を日本語または英語に設定。マイクをオンにする。
2.音源を流しリテンション(記憶)する。
3.記憶した内容を声に出して再現し、Speechnoteに書き取らせる。
4.同じ箇所の音源を流し、Speechnoteに書き取らせた内容が正しいかどうかチェックをする。
【注意事項】
音源をスピーカーで流すとSpeechnotesが音源の音までディクテーションしてしまうことがあります。自分のリプロダクションだけを正確に音声認識させるため、音源はヘッドホンまたはイヤホンで聞いてください。
【メモとりについて】
リテンションは頭の中だけで処理・記憶できる情報量を増やすための訓練です。そのため練習時にはメモは固有名詞と数字のみに限定し、それ以外は原則メモをとらずにリテンションしましょう。
✔ リテンション強化のための練習教材とおすすめの使い方
リテンションとは聞いた話を正確に覚える技術なので音声であれば何でも教材になるとも言えますが、ここでは私が昨年から毎月30日に作成&公開している練習教材動画を紹介します。
上記以外の動画はこちらから → 通訳練習用教材動画一覧(日本語&英語)
【動画の特徴】
1.1つの目標ごとに日本語動画1本と英語動画1本の計2本を作成しています。
2.読み上げは1文ごとに区切り、読み上げの直後にはリプロダクションまたは通訳用の無音時間を入れてあります。無音時間の長さは元の発言の1.5倍です。これにより動画を止めることなく、スムーズな練習が可能です。
3.読み上げ原稿は国連または国連開発計画のウェブサイトに掲載されているものを使用しています。出典元のURLを表示していますので、分からない箇所や聞き取れない箇所はスクリプトで確認できます。
【おすすめの使い方】
1.日本語動画でリテンション&リプロダクション
まず内容の理解は母語の方がスムーズなので、日本語で最初にリプロダクションをすることで内容を把握し、知識を吸収します。
2.英語動画でリテンション&リプロダクション
次に同じテーマの話を英語でリプロダクションすることで、日本語で得た知識の英語での表現や単語を習得します。
3.英語動画でメモ無し逐次通訳
通訳の際に英→日が先なのは、アウトプット言語が母語の方が自信を持って訳せるからというのと、日→英をする際にどんな英語を使えば良いのかを先に確認しておくためです。
4.日本語動画でメモ無し逐次通訳
最後に日→英の通訳をし、ここまでに習得したその教材に関連する英語の単語や表現を自分の言葉として使えるようになっているかの確認をします。
【メモとりについて】
話の区切りが一文ごとと短いので、リプロダクションも通訳も固有名詞と数字以外はメモを取らずに練習しましょう。
✔ より効率的にリテンションを強化するために
リテンションは、背景知識、読解力、語彙、表現、文法、リスニング、スピーキング等、英語や日本語のあらゆるスキルを必要とする、総合的な技術です。
リテンションの目的は「記憶すること」ですが、記憶できるか否か、またどの程度の精度で記憶できるかは、記憶力以外のスキルに左右されることがほとんどです。
まずは自分に何が足りないためにリテンションができないのかを分析し、原因を探りましょう。その上で不足している技術を重点的に鍛えることで、効率的にリテンションを強化することができます。
自分には何が不足しているのか、ひとりでは分析が難しいと感じる方は、ぜひオンラインのリテンション強化講座をご活用ください。パフォーマンスを拝見しあなたの強みと弱みを分析し、最適な学習法をご提案します。受講回数に制限は設けていません。「アドバイスを受けるために1回だけ受講したい」という方も大歓迎です。
また2023年4月、短文通訳やリテンションを自主練習で習得できる自習室を開講しました。自習室ではレッスンで使用している初心者向けの教材を使い、自分のペースで何度でも練習をすることができます。こちらも併せてご検討ください。
✔ おわりに
「人の話を一言一句正確に記憶して再現するまたは別言語に訳す」という技術は、日常生活や通訳以外の仕事の場で求められることがほぼない技術です。
つまりリテンションの訓練はこれまで鍛えてこなかった筋肉をいちから鍛える筋トレのようなものです。そのためやり始めてすぐに力がつくものではありません。成長を実感できるまでには長い時間と多大な努力が必要です。
ほとんどの人が今すぐにでもリテンション技術を向上させたいと思う一方で、残念ながらリテンションの習得には「地道にコツコツ」以外の近道が無いのが現実です。
しかしながら地道に丁寧に身につけたリテンション技術は高品質な通訳パフォーマンスの強力な助けとなります。どうか諦めず、焦らず、信頼される通訳をするために確かな技術を身につけてください。
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「リテンションができない=記憶力が悪い」ではない|リテンション習得に必要な4つのスキル
【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り