こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
私は以前、マイナビ進学の「進路のミカタ」という部門の「シゴトを知ろう」という企画で(書面での)インタビューを受け、2019年11月に同ウェブサイトに記事を掲載していただきました。「高校生にも分かるように易しい言葉で説明してください」とのリクエストを受け、できるだけ平坦な言葉を使って自分の仕事についてお話しをしました。
その記事はトップページと自己紹介ページに画像付きでリンクを貼ってあったのですが、どうやら「進路のミカタ」のサービスが先月で終了してしまったらしく、私の記事も消えてしまったようです。しかしながらせっかく頑張って書いたものだったので、「進路のミカタ」に掲載されていた記事と同様に、2回に分けてこのブログに残しておきたいと思います。
今回は「進路のミカタ」で番外編として掲載された、後半部分です。
前編はこちらから:中学生・高校生にも知って欲しい!通訳ってこんな仕事です①(2019/11/28マイナビ進学「進路のミカタ」掲載)
●「職業病」のようなものは何かありますか?(休日についつい○○してしまう、など)
分からないことがあると何でもまずGoogle検索し、その対訳(日本語の調べものならそれは英語でどう表現するのか)も一緒に調べます。また洋画の日本語字幕を読みながら、自分ならどう訳すかなといつも考えてしまいます。
「常に勉強モード」というのが、職業病と言えそうです。
●通訳のお仕事をするこき、心がけていることはありますか?
仕事の前にはできる限りの準備をします。クライアント(お客様)からいただいた仕事の資料を読み込み、分からないことは徹底的に調べ、日本語と英語どちらの言語でも対応できるように資料を声に出して読み上げます。どんなに難しくても忙しくても、一度仕事を引き受けたら自信を持って現場に向えるように、この事前準備には一切妥協しないように心がけています。
仕事の当日は、できれば1時間前、どんなに遅くとも30分前にはクライアントとの集合場所に着けるように家を出ます。通訳者が時間通りに現場に到着できなければクライアントに大変な迷惑をかけることになります。電車が遅れたり初めての場所で道に迷っても大丈夫なように、時間には十分に余裕を持って行動します。
●これまで引き受けたお仕事の中で、「これは驚いた」という依頼は何かありますか?
サッカーの「レフリーインストラクター講習」の通訳をした時です。レフリーインストラクターとは、サッカーのレフリーを教育する人達のことです。この講習は、そのレフリーインストラクターになりたい人たちが資格を得るためのものでした。
この仕事の時は、「動きやすい服装で来てください」と事前に連絡がありました。普段はスーツが制服のような仕事ですからまずここで戸惑いましたが、更に驚いたのはこの後です。
当日ジャージで現場に行くと、講習を受けに来ていたレフリーインストラクター候補生とともにコートに集合させられ、「彼らの考えてきたレフリーの練習メニューを実際にやるので、一緒に動いて通訳をしてください」と指示されたのです。広くて声が響かないコートの上で、候補生と一緒に走り、大声を張り上げて通訳をしました。
まだ駆け出しの若い頃で体力もあったので何とかなりましたが、もう二度とできる気がしません(笑)。
【参考】今までで一番大変だった通訳の仕事
●通訳にとって一番重要なことはなんだと思いますか?
何にでも興味を持ち、勉強し続けることです。
●山下さまは、通訳を目指す人向けの教材を作成したり、通信講座を開かれたりと、通訳者の教育にも力をいれていらっしゃいますが、教材づくりや講座を始めようと思ったきっかけはなんですか?
元々オンラインの英語講座をやっていて、その生徒さんたちやサイトを訪問してくれた地方在住の方々から「オンラインの通訳講座をやってほしい」という要望を多数いただいたためです。
私はサイマルアカデミーで通訳技術を学んだ4年半のうち、約3年間は静岡から週2日新幹線で東京に通っていました。通常ではなかなか通えない距離を、家族のサポートのもとで通わせてもらいました。しかしながらこれは私が恵まれた環境にあっただけで、通学圏内に通訳学校が無ければ通訳技術を学ぶこと自体を諦めなければいけないのが現状です。動画を視聴する形式のインターネット講座もありますが、細かい指導までは受けられないのが難点だという声もありました。そんなオンラインでのマンツーマン通訳指導を望む人たちの声に応えたかったのです。
教材の製作はまだ始めたばかりですが、こちらも同様に、「通訳の自主学習教材が欲しい」という声を受けて作りました。
どちらも「時間や場所による制限に縛られることなく、学びたい人には学べる機会を提供したい」という想いがきっかけです。
●通訳の話から少し外れてしまいますが、山下さまの目から見て、英語がなかなか上達しない人は何が原因だと思いますか?
英語がなかなか上達しない原因は人それぞれですが、多くの人に共通する原因として、「文法力不足」が挙げられます。文法とは言葉を使う上でのルールであり、「聞く」「話す」「読む」「書く」すべての基礎ですから、これが十分でないと上達の妨げになってしまいます。
文法力不足を指摘すると「文法の知識は入っています」「学生の頃ちゃんとやりました」と反論する方も多いのですが、問題は「使えるレベルまで深く理解し、使う練習を十分にしていない」ことです。
私はこれを、中学3年間の英語の教科書を全て暗唱するまで何度も音読すること、そして大学受験用の英語構文集の反復練習で克服しました。教科書の文章や構文集の例文を覚えることは文法の反復練習になるだけでなく、それを実際に声に出す練習をすることで話す練習にもなります。日常会話レベルの英語なら、中学レベルで80%、高校レベルで90%通用します。
通訳のように更に上級レベルの英語の習得を目指す場合は、この基礎がどれだけしっかりしているかが重要です。基礎の強さが極められるレベルの上限を決めると言っても過言ではありません。
●通訳の仕事をしたからこそ、こんなものが見えてきた、こんな部分が成長できた、ということはなにかありますか?
通訳の仕事の魅力のひとつが、「たくさんの人の話を深く理解しながら聞けること」です。
自分ではない誰かの話を正確に理解して別言語で表現するためには、その人の気持ちになって言葉を理解し解釈しなければいけません。そういう姿勢で通訳をしていると、その人の物の見方や考え方に深く触れることができます。そしてこの経験が増えるにつれて、ひとつのことも様々な視点から見たり考えたりできるようになります。
この経験を重ねる度に、通訳としてだけでなく、ひとりの人間としてもとても成長させてもらっていると感じています。
☆最後に、お仕事の中で、一番の思い出や達成感を感じたエピソードについて教えてください。
クライアントの訪問先である方にかけていただいた言葉を今でもよく思い出します。
クライアント(日本人)とその訪問先(仮にA社とします)の話し合いには私も過去に何度か通訳として同席していました。その日はA社の代表が会議に参加されていて、その方があることをきっかけにものすごい剣幕でクライアントを叱責しはじめたのです。怒りのあまりに途中で話を切りたくなかったのでしょう。いつもの3倍近くの長さを一気に話されて、私は必死で内容を覚えながらメモを取りました。
ようやく代表が話し終わり、通訳の番が回ってきました。かなり強い感情の込められたメッセージだったので、そのニュアンスを損なわないようにドキドキしながら慎重に通訳しました。そして最後まで訳し終えたところで、突然代表が私に向って仰ったのです。
“Excellent! You didn’t miss anything.”
訳)素晴らしい!何も落としませんでしたね。
このA社の代表は仕事では公式言語として英語しか使われませんが、実は日本語も完璧に理解できる方です。私の通訳を聞きながら隅々までチェックして、この言葉をかけてくださったのです。
クライアントへのお叱りの最中に、通訳に向ってこんな言葉が飛んでくるとは予想外のことでとても驚きましたが、だからこそ本気でそう評価していただけたのだということが分かり、とても嬉しかったです。
この時にかけていただいた言葉は私の誇りであると同時に、通訳を聞く方にいつもこう感じていただけるよう、努力を怠らないための戒めでもあります。
【参考】同時通訳者Erikaの今年の英単語2017(ここぞと言う時こそリテンション)
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お薦め:私が通訳になるまで1~40話
【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り