こんにちは、札幌在住の英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。いつもご訪問ありがとうございます。
通訳は鋭利な針先のような集中力が必要な作業のため、身体や心の状態にパフォーマンスが左右されやすいデリケートな作業です。体調不良やちょっとした精神的なほころびにより、通訳や訓練が上手くできないという経験をしたことのある人は多いでしょう。今回はその身体や心のコンディションによる通訳のパフォーマンスの変動への対処の仕方についてお話しします。
✔ 「仕方ない」けど「仕方なくない」
私が実施している1対1のプライベートレッスンでは、よくよく観察していると受講生のその日の体調や精神の安定状態がある程度わかり、それによるパフォーマンスの質の変動もよく見えます。身体や心に不調が生じている場合、いつものようなパフォーマンスができなくても私は叱り飛ばすようなことはしません。基本的に「大丈夫」「落着いて」と声をかけるようにしています。不調でいっぱいっぱいの相手にきついことを言っても何も良いことはないからです。(私の気が弱いからとも言えますが...)
その一方で私は、「体調や心理状態によって集中力やパフォーマンスの精度に変動があるのは仕方ないことです。でも不調なら不調なりに、今できるベストのパフォーマンスを目指しましょう」とも言います。
特に女性の場合月経のサイクルに左右されやすいため、体や心の不調はある意味では日常の一部です。これにより体調が良好な時と同じパフォーマンスができないのは仕方のないことです。
しかし同時に、仕事当日の通訳者のコンディションはお客様には関係のないことで、お客様は常に報酬に見合ったサービスを期待しています。この意味においては「身体や心の不調で上手く通訳できない」は仕方ないとばかり言ってはいられないのです。
ここからはこのような事態にどう備えれば良いのか、私の経験も交えながらお話しします。
✔ 「低空飛行でもいい、墜落しないことが大事」
これは私がサイマル・アカデミー時代にお世話になった先生の教えです。そしてどんなに辛い時でも「墜落しない」ために必要なのは、日々の鍛錬によってのみ習得&維持できる、通訳者としての気力と技術の基礎体力です。
私自身、通訳者としての初仕事をしてからもうすぐ丸15年になります。この15年間、「何でよりによってこんな体調の日に...」という日に仕事をしたことも何度もありました。そういう時は思うようなパフォーマンスができないこともありましたが、そんな時にも商品として恥ずかしくないと思える通訳ができてきたのは、身体や心の状態に関わらずいつでも一定レベル以上のパフォーマンスができるように毎日のトレーニングを続けて来たからです。
以下、私が日課にしているトレーニングの内容です。
1.シャドーイング(英語15分間、日本語5分間)
2.音読(英語&日本語、どちらも短めのニュース・新聞記事1本程度)
3.日本語・英語でのニュースチェック(頭の中で5から7割程度訳しながら聞く)
4.意味が分からない単語や訳し方が分からない単語はすぐに辞書で調べる
✔ 「無意識でも動く筋肉」を作る
どれも地味ではありますが、毎日続けるとなると難しい作業です。そしてこのような基礎トレーニングの反復により、耳から入った音に対して脳と口が反射的にかつ正確に反応できる単語や表現、話題を増やすことができます。また毎日集中してトレーニングに取り組む時間を作ることで、一定時間集中する習慣を脳につけることもできます。
この繰り返しと積み重ねが「意識しなくても動く筋肉」を作り、鍛え、その結果としてコンディションの如何に関わらず一定レベルのパフォーマンスを維持できるようになって行きます。
✔ 事前準備の大切さ
日常的な基礎トレーニングと併せて重要なのが、それぞれの仕事の前の準備です。
クライアントやエージェントから送られてくる資料は最優先で読み込み、単語を調べ、対訳をつけ、声に出して読み上げて耳と口で反応できるように準備します。それ以外にも補助的な下調べもし、必要な背景知識も頭に入れます。
仕事の直前の準備が効率的にかつ効果的にできるかどうかも、日々の積み重ねにかかっています。
新しい仕事のために新たに頭に入れる情報や知識をすんなりと吸収し自分の言葉として使えるようにするために必要なのは、それを難なく理解できるだけの知識のベースを日常的に自分の中に作ること、また苦手意識を持つことなく新しい語彙や表現を聞いて声に出す練習をすることなのです。
✔ 体調管理も大切
もちろん言うまでもなく、体調管理も必須です。
例えば体調の良し悪しに関わらず、通訳の前夜に十分な睡眠をとることは大切です。良い通訳には良い集中力が不可欠。そしてその集中力を整えるためには良質な睡眠が欠かせません。うがいや保湿等、日常的に喉のケアをすることも忘れずに。
✔ おわりに
体調や精神状態によるパフォーマンスの波は、その時になってじたばたしてもどうすることもできません。アスリートのように日々の鍛錬と調整が重要です。
その一方で、ひとりで現場に立った時、「自分を信じられる」ということほど心強いものはありません。いざと言う時に過去の自分に感謝できるくらいの積み重ねと準備をして行きましょう。
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り