★ こんな人に読んでほしい
- 話を聞いたそばから忘れてしまう
- とにかく記憶力が悪い
- 相手の話すスピードに理解が追い付かない
- 聞く・理解する・記憶する・考える...を同時に行うマルチタスクが苦手
- 英語でのコミュニケーションに関して上記のような悩みを抱えている
こんにちは、札幌在住の英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。ご訪問ありがとうございます。
聞いたことを正確に記憶(リテンション)して正確に再現(リプロダクション)する技術は、正確な通訳に不可欠です。
しかしながら人の話を一言一句正確に記憶するというこの技術は日常的に必要とされることが少ないものなので、これまで私は通訳をする人にのみ必要な技術だと考えていました。
ところがリテンション&リプロダクションに重きをおいたオンライン講座を実施していく中で、通訳の必要がなくともこの技術を求める人が少なからずいることを知りました。
現在、英語力強化のため、また日本語での記憶力と理解力向上のため、総合的なコミュニケーション能力強化のため等々、通訳以外の様々な理由でリテンション講座を受講される方が増えています。
リテンション&リプロダクションのトレーニングのやり方は実にシンプルで、「聞いた話を聞いた通りに(同じ言語で)繰り返す」というもの。しかしそれが実はとても難しく、身につけるのが困難なスキルでもあります。
私のレッスンでは、この演習を日本語のみ、英語のみ、または日英両言語で実施し、受講生の記憶の癖や苦手を分析し、強化が必要な部分を指摘したり、改善方法の指導などをしています。
✔ リテンション強化のメリット
様々な理由でリテンション技術を求める方たちとのレッスンを進めて行く中で、リテンションの強化には日本語・英語を問わず言語の使用やコミュニケーション能力の向上において様々なメリットがあることが見えてきました。そのメリットとは次のようなものです。
● ワーキングメモリ(短期記憶力&意識制御)
● 傾聴力
● 読解力
● 音声の情報処理能力&速度
● 集中力
● 表現力
● 英語の弱点の洗い出し
● 英文法・構文力
前回導入部として掲載した記事【短期記憶をUPしよう 01】日本語の、英語の、通訳の、リテンション&リプロダクション目的別強化方法とメリットに続き、これから数回に分けて、リテンションを鍛えるメリットをひとつひとつ解説して行きます。今回のテーマは、ワーキングメモリ(短期記憶力&意識制御)です。
✔ ワーキングメモリとは
ワーキングメモリとは、目の前の作業に必要な情報を一時的に記憶し、その記憶に基づき効率的に作業するために必要な能力です。円滑なコミュニケーションにも、日々の仕事にも、ワーキングメモリが必要です。
例えば日常の中でワーキングメモリが必要な場面には次のようなものがあります。
- 人の話を聞いて理解し、記憶する。
- 相手の質問を聞いて理解し、素早く回答を頭の中でまとめる。
- 資料を読み内容を理解し、必要な情報を自分の主張に反映させる。
ついでに通訳時のワーキングメモリの流れを少しご紹介。
- 人の話を聞いて、
- 事前に読んだ資料の情報をもとに理解し、
- 言葉とイメージを結び付けて正確に記憶し、
- 別言語に翻訳し、
- 声に出して訳出する。
ワーキングメモリは一般的にこのような図で解説されます。
この図を言葉でまとめるとワーキングメモリとは、
「耳による言葉の短期記憶(音韻ループ)」と
「目によるイメージの短期記憶(視空間スケッチパッド)」、
そしてそれらをもとに「意識の制御・管理や同時に進行する複数の作業に脳のリソースを適切に割り当てる(中央実行系)」能力です。
✔ 通訳のリテンションのイメージ
上記の画像にならい通訳時のリテンションのイメージをまとめた画像がこちらです。
通訳のプロセスにおいてリテンションはそのスタートとなる要の技術です。理解と記憶が正確にできなければ正確に訳すことは不可能です。そこでまず、言葉とイメージを総合的に記憶することで、正確な通訳の基礎を作ります。
記憶ができたら次は「中央実行系」に進み、その記憶をもとに「記憶した情報の反芻と整理、内容の読解と解釈、訳語の選定、言語変換、文の組立、集中力の維持、緊張のコントロール」などの作業それぞれに脳のリソースを振り分け、これらの作業を同時進行で実行します。
通訳時のリテンションとは、一般的に語られるワーキングメモリを更に強化し効率化することで、より複雑な作業をこなせるようにしたものであることがお分かりいただけるでしょう。
✔ リテンションはワーキングメモリ強化のための数少ない&有効な具体策
ワーキングメモリはここ最近、幼児教育から大人の仕事の効率アップのカギとして注目されていますが、その強化の仕方についてはまだ具体的な情報が少ない印象です。せっかくワーキングメモリの重要性が分かっても、それを身につける方法がなければ意味がありません。
通訳のリテンションのトレーニングは、その数少ない「具体的な方法」のひとつであり、かなり有効な手法であると私は考えています。なぜなら通訳の訓練としてリテンショントレーニングを実施しこのスキルを身につけた私自身が、このトレーニングとスキルが通訳にとどまらずワーキングメモリとしても日常の様々な場面で私の強力な支えとなってくれていると実感しているからです。
具体的にどう役立っているかと言うと、最初に書いたこととも多少重複しますが、次のようなものが挙げられます。
- 人の話を集中して聞くことができる
- 人の話を正確に覚えることができる
- 人の話を記憶しながら聞けるので話を途中で遮らない
- まとまりのない話も論理立てて聞くことができる
- 相手の話に集中しつつも同時に自分の考えをまとめられる
- 聞く、思い出す(過去のことや自分の知識を含む)、考える、考えをまとめる、話す、といったマルチタスクをそれぞれに集中しながらできる
- 集中力のスタミナがつく(長時間深く集中できる)
- 同時に頭の中で処理できる情報量が増える(思考のキャパが増える)
このようなスキルが身につくと、プライベートでも仕事でも、コミュニケーションが円滑になったり作業効率が各段に上がったりと様々なメリットが期待できます。
【参考記事】
★ 通訳のリテンション(短期記憶)のコツ - 意味のかたまりを意識する
★ 通訳の必須スキル、リテンション(短期記憶保持力)を自主練習で強化!実践方法と練習用動画を紹介
✔ おわりに
リテンションのスキルはとても実用的で非常に便利なものですが、一朝一夕で身につくものではありません。習得には地道で継続的なトレーニングが必要です。しかしながら一度身につくと、目の前に新しい世界が開けるくらい、生活に仕事に様々な恩恵をもたらしてくれる技術です。
先にその「新しい世界」を体験し感動した者として、ひとりでも多くの人がリテンションを習得し、その実用性と「できる楽しさ」を体験してくれることを心から願っています。
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り