リテンション(短期記憶保持力)16時間の法則 - 通訳に必要な記憶力はどれくらい練習すれば身につく?

通訳 英語 リテンション 記憶力 短期記憶 憶えられない 16時間 オンライン 通訳講座 山下えりか 

 

 こんにちは、札幌在住の同時通訳者で英語・通訳講師の山下えりかです。ご訪問ありがとうございます。

 

 通訳訓練の最初にして最大の難関リテンション(短期記憶保持力)の習得。これには通訳訓練を経験する人のほぼ全員が悩まされます。サイマル・アカデミーで通訳訓練を始めたばかりの頃の私自身も経験した悩みですし、私のオンライン通訳講座の受講生も毎回リテンションの出来不出来に頭を抱えています。同じ悩みを抱えてこのブログに辿り着いてくださった方も多いことでしょう。

 

 そしてこの悩みをかかえる人たちに共通する疑問のひとつがこちらです。

 

「これっていつまで続ければできるようになるの?」

 

今回はこの疑問に、私が4年半の個人指導で得た経験とデータをもとにお答えします

 

 ちなみに「自分は記憶力が悪いからリテンションができないんだ」という悩みについては下記の記事でじっくり解説していますので、ご参照くださいませ。

 

【参考】

「リテンションができない=記憶力が悪い」ではない|リテンション習得に必要な4つのスキル

 

 


 

 

✔ 16時間の法則


 タイトルにも書いた通り、カギとなるのは16時間という数字です。

 

 私はこの4年半ほどで約150人の英語や通訳の指導をしてきました。オンラインでの指導を初めて1年ほど経った頃から、リテンションについては漠然と「初回の受講から15回目くらいになると変化が見えてくる人が多いな」と感じていました。

 

 この点について、私なりに受講生の上達度合いや回数をよくよく観察していたところ、ある条件を満たして継続受講をしている受講生は多くの場合、16回目、すなわち約16時間のトレーニングでリテンションのスキルに最初の変化が表れるという結論に辿り着きました。

 

 具体的には、毎週1回の受講で約4ヶ月、月2回の受講で約8ヶ月といった感じが多いです。

 

 

✔ 私の「16時間」


 自分の時はどうだったかと考えてみると、やはりこの法則に近い期間で実力がついていたことが分かりました。

 

 私自身は、リテンションは通訳者養成機関であるサイマル・アカデミーの授業でのみトレーニングをしていました。自主練習しなかった理由は、単純に有効な方法を見つけられなかったことと、ひとりでは難しい練習だったからです。

 

 サイマル・アカデミーの授業はクラス単位の授業です。リテンションのトレーニングをしていた最初の2つのクラス(現在の通訳Iと通訳II)は、12人前後のクラスでした。

 

 授業時間が1回110分程度と考えると、大まかに計算して生徒1人にかけられる時間は1回あたり10分程度です。これが週に2回なので、私の場合は1週間あたり20分、1ヶ月あたり80分のトレーニングでした。

 

 私がリテンションに自信を持てるようになったのは通訳訓練3期目の後半に入ってからでした。サイマル・アカデミーの授業は1学期あたり(夏休みや冬休み、学期と学期の間の休みなどがあるため)4ヶ月間ほどですから、12ヶ月間かかった計算になります

 

 単純計算で、80分×12ヶ月で960分。時間に直すと、16時間でした。

 

 もちろん通訳スクールのグループ授業と個人レッスンを単純比較はできませんし、上記のサイマル・アカデミーでの授業は全てがリテンション演習ではありませんでしたが、この「16時間の法則」はこれまでの経験とデータから、信頼できる数字であると考えています。

 

 

✔ 16時間の法則の条件


 さて、先述の通り、この16時間の法則には条件があります。

 

1.トレーニング開始時点で通訳訓練に必要な英語力があること。

 

2.毎回レッスンの予習復習に真剣に取り組むこと。(レッスン冒頭の復習演習の際に言い淀みがない、復習動画の時間内に訳せる、予習用の単語リストが頭に入っている、等が目安。)

 

 つまり授業以外の時間も手を抜かずに勉強を続けている人であれば、当レッスンを約16回受講すると最初の手応えを感じることができるはずです。

 

 

✔ 年齢は関係ない


 ここで「とは言え年齢によって効果は異なりますよね?」という疑問がわいてくる人もいるでしょう。

 

 リテンションに必要なのは記憶力だけではないとは言え、これはあくまでも記憶力のトレーニングであり、記憶力は年齢とともに衰えるのが通常なので、実は私も以前は「年齢を重ねるほどリテンションは身につきにくい」と考えていました。

 

 しかしそんなことはありません。上記の条件を満たしていれば、最初は短文のリテンションにも苦労していた60代の受講生でもリテンションの力はつきます。それを目の前で見せてくれた受講生がこれまでに複数いました。

 

 リテンションのスキルを身につけるのに年齢は関係ありません。どれだけ真摯にそして愚直に、継続して目の前の課題に取り組めるか。大切なのは気持ちの強さと行動力です。

 

 

 

✔ 「ただ16時間やればできる」ではない


 とは言え、ただ16時間練習をすれば良いということではありません。

 

 まずこのデータは私自身のサイマル・アカデミーでの経験と、個人レッスンの受講生の観察から得たものなので、自主練習のみの場合ではどれくらいかかるかは私にもわかりません。

 

 私のレッスンでは、その受講生がどんな箇所を落としやすいのか、なぜ記憶に残らなかったのか、などの細かい分析をしながらレッスンを進めています。そのためより効果的にリテンションを鍛えることができ、一人でやるよりは間違いなく効率的に力をつけられます。その効率を加味しても「最短16時間」であるということは念頭に置いておくべきことだと思います。

 

 また「16時間の法則」はあくまでも「最初の手応え」を感じられる目安であり、「完璧なリテンションができる目安」やゴールではありません。「最初の手応え」とは多くの場合、「短文は一回で記憶できるようになってきた」「以前はお手上げだった長めの文も初見で5割から8割程度記憶できるようになた」というものです。

 

 通訳に必要な正確なリテンションを身につけるため、最初の16時間で手応えを得た後も、トレーニングと自主学習を続けて更に精度を挙げる努力が必要です。

 

 


 

 

✔ まずは16時間頑張ってみよう


 多くの人が先が見えずに挫折してしまいがちなリテンションのトレーニング。せっかちな人は最初の2、3回程度で「こんなにやっているのに」と愚痴をこぼしますが、それは焦りすぎです。最初の2、3回ではまだ何も力はつきません。

 

 また先ほど16時間で得られる最初の手応えはゴールではないと書きましたが、ゴールではないものの、この最初の手応えを感じた後は皆さん成長速度が上がって行きます。やはりまずは日々英語力を磨き知識を増やすといった努力を続けながら、16時間、焦らず愚痴らず、そして落ち込まずに、リテンションのトレーニングに取り組みましょう

 

 

 

✔ おわりに


 とても嬉しいことに、ここ1~2年間、私のレッスンの課題やトレーニングに真摯にまた継続的に取り組んでくださる受講生が増えています。この法則の検証は彼ら・彼女たちの努力なくしてはできませんでした。彼ら・彼女たちとのご縁に感謝し、その努力に心からの敬意を表します。

 

 16時間の法則は100%ではなく、当然個人差はあります。しかし、何事も「継続は力なり」です。リテンションの習得を目指すのであれば、その継続のひとつめの目安として、まずは16時間、頑張ってほしいと思います。

 

 

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【About Erika】

職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)

現住所:札幌市

留学歴:3年(アメリカ)

特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)

趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り