✔ 通訳のための記憶の技術「リテンション」
「通訳」と聞くとどうしても語学力や訳す技術に意識がいってしまいがちですが、そもそも「話者の話を覚える」という最初の作業ができなければ、語学力や訳す技術が必要となる段階までたどり着けません。そして自分ではない誰かの話を一発勝負で正確に記憶する技術(リテンション)は、語学力や訳す力と並んで通訳者に必要不可欠な能力であり、同時通訳の「聞きながら話す技術」と同じくらい高度な技術です。
関連記事:【学習法】英語&通訳の勉強方法まとめ
そんな通訳の要の技術とも言えるリテンションは、現在私の通訳講座を受講されている生徒さんのほぼ全員が抱える最大かつ共通の課題です。毎回少しでも成長してほしいと願い、私もリテンション強化メニューを考案して対応していますが、残念ながらこの技術は一朝一夕でどうにかなるものではなく、地道に練習を続けて少しずつ力をつけて行く以外の解決策はありません。
✔ リテンションのコツは情報の映像化
その一方で、リテンションにはコツがあります。それは、頭の中で言葉(情報)を映像化して記憶するという方法です。ただしコツとは言っても、これも口で言うほど簡単にできるものではありません。以前はこの「コツ」の話をする度に受講生から「どうやったらイメージできるようになるんですか?」と質問され、その度に「継続は力なり」以上の回答ができずにジリジリしていました。(もちろんこれも事実なのですが。)
私の場合どうだったかとサイマルアカデミー時代を振り返ってみると、通訳訓練開始から1年ほど経った入門科(現・通訳II)2期目のある日、突然イメージが頭の中に浮かびました。詳しい内容はもう覚えていませんが、確か航空機の輸出の話で、世界地図とその上を飛ぶ飛行機が頭の中に浮かんだのです。これが「イメージでリテンション」の最初の体験でした。
それ以来、イメージができて上手くリプロダクションや通訳ができた時、イメージも記憶もできなかった時を幾度となく繰り返し、映像または静止画を頭に思い浮かべながら記憶&そのイメージを再生しながら通訳をするというスタイルを自分に定着させてきました。
そしてこの技術を受講生に教える立場になり改めてイメージ+リテンションの強化方法を探っていたところ、当時から現在に至るまで私が習慣にしているあることに思い当りました。
✔ テレビを通して知識に触れよう
それは、テレビから知識を得るという方法です。映像、音声、文字の全てを使って様々な知識に触れ、言葉、知識、音、映像の全てをリンクさせて自分の中に蓄積することを習慣化することで、音として耳に入って来た言葉からイメージを作りやすくすることが目的です。
20代前半で通訳訓練を開始した私には、あらゆる面での知識不足が最も深刻な課題でした。知識が足りないということは話を正確に理解できないということです。そして理解できない話は記憶できません。それをサイマルアカデミーでの授業の度に痛感していた私は、毎日のニュースに加え、教養番組や○○特集等、どんなものでも知識として知っておくべきだと思った番組を時間の許す限り片っ端から見ていました。知識量を増やすために新聞や本ももちろん読みましたが、テレビは短時間で大量の知識に広く浅く触れられるので最大限活用してきました。
ちょうどこの頃mixiで書いた日記に、ある日曜日の私の行動の記録がありましたので掲載します。
08:00 起床
09:00-10:00 NHK日曜討論
10:00-11:45 民法討論番組(臓器移植法改正案、北朝鮮問題、高福祉高負担の北欧特集etc)
11:45-11:55 民法ニュース
12:00-12:15 NHKニュース
13:00~ 両親に誘われ食事へ
15:00-16:00 帰宅後、録画してあったカンブリア宮殿(スズキ特集)
16:00~ 日課の勉強(シャドーイング、音読、精読)
18:00 NHK イラン大統領選特集
18:30 夕食
19:00-19:30 NHKニュース
21:00~ サイマルアカデミーの授業の予習&テスト勉強
ご覧の通り、とにかくテレビを見まくっています。私はサイマルアカデミーに通うまでテレビを見る習慣自体があまり無かったのですが、入学後は知識が足りなすぎて好き嫌いを言っていられる状況ではありませんでした。サイマルアカデミーを卒業して通訳者になるという自分の目標を達成するために、必要だと思ったことは何でもやりました。
✔ おわりに
より精度の高いリテンション&リプロダクションと通訳をすることを目指すのなら、言葉を聞いて音からイメージが自然と頭に浮かんでくるようにするため、テレビを活用しましょう。何事もアウトプットの強化にはまず大量のインプットが必要です。言葉とイメージが溢れて頭の中で無意識に直結するまで、日々大量の言葉と映像をインプットしてその回路を作り上げてください。
オンライン通訳講座では短期記憶保持力を強化することに特化したリテンション強化レッスンを開講中です。併せてご活用いただけましたら幸いです。
次の記事:◆結婚9周年◆ 32歳差の年の差婚のリアル - コロナ禍で24時間365日一緒の生活ってどうなの?
前の記事:「ブラック・フライデー」って何?|その意味と起源を解説
お薦め記事:
【保存版】リテンション(短期記憶保持力)の解説と学習方法まとめ
通訳のメモのコツ(「メモ取りが苦手」の問題点とリテンションの重要性)
同時通訳者Erika流「リテンション&リプロダクションの自主練習方法」
同時通訳者Erikaの今年の英単語2017(ここぞと言う時こそリテンション)
コメントやご質問はお問い合わせページからお願いします。