こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
リテンション&リプロダクションと並んで重要な通訳の基礎技術が「要約」です。通訳者に求められる要約の技術とは「重要な情報を瞬時に見分ける技術」であり「必要な情報を短時間で簡潔にまとめる技術」です。通訳者は情報に優先順位を付けながら話を聞き、重要な情報を中心に頭の中で話をまとめて訳に反映させます。
要約の自主練習方法は過去の記事で紹介しましたが、今回は要約をする際に意識すべきポイントを、過去に私がレッスンで使用していた文章を使って解説します。
✔ 要約の際に意識すべきポイント
- 時間または文字数にして元の内容の半分以下にまとめる
- 聞き手が誰かを意識する
- 5W1H (What, Who, Where, Why, When, How)を意識する
- 具体例を省く
✔ 例文
大手菓子メーカーの「明治」は、埼玉県にある坂戸工場と大阪府にある大阪工場でおよそ270億円を投じてチョコレート商品の生産ラインを増設すると発表しました。今回の設備投資によって坂戸工場はおよそ60%、大阪工場はおよそ20%、それぞれ生産能力を増強することができるとしています。
国内のチョコレート市場は健康志向の高まりを背景に原料のカカオの含有率が高い商品や乳酸菌などを含む商品の需要が伸び、おととしの市場規模が5260億円と、5年間で2割近く拡大しています。
「明治」はチョコレート商品の販売シェアが国内トップで、生産能力の増強により高カカオの商品などを増産し需要の伸びに対応したいとしています。
(2018年のニュースより)
読み上げ時間:約1分間
文字数:296文字
✔ 要約例
大手菓子メーカーの「明治」は、健康志向の高まりを背景とした国内のチョコレート市場の拡大を受け、およそ270億円を投じて埼玉と大阪にあるチョコレート工場の生産能力を増強させることを決めました。
✔ この要約のポイント
時間:約20秒
文字数:95文字
(原文の約3分の1)
聞き手:このニュースを初めて聞く人たち(情報を詰めすぎない)
Who: 明治
What: チョコレートの生産能力を増強
Where: 埼玉&大阪にある工場
Why: 健康志向の高まりによる市場拡大
When: 記載なし
How: 270億円を投じて(これくらいの長さなら要約に入れる数字は1つだけ)
✔ 要約の練習をする際の注意点
通訳訓練としての要約はあくまでも実際の通訳パフォーマンスのためのものなので、最終的な目標は「1回聞いて瞬時に要約する」です。
ただしいきなりそれは難しいので、まずは「文章を読んで、文章を書いて要約する」を時間をかけて丁寧にやることから始めましょう。スピードを意識することはもちろん大切ですが、質も同じくらい大切です。まず質を上げてからスピードを上げるという順番が理想的です。
自分が納得できる要約を作成できるようになったら次は、1回の要約にかかった時間を計り、その時間を短くすることを目指しましょう。
「読んで書く」の要約が短時間でできるようになったら、「声に出して読み上げて(または音声を聞いて)、口頭で要約する」の練習です。自分の要約を確認するために、ボイスレコーダーで録音しながらやるのが効果的です。
✔ 教材の選び方
過去の記事(「要約の自主練習方法」)でも紹介しましたが、要約の練習にはNHKのオンラインニュース記事を使うのがオススメです。
なぜ「NHKの」と指定するのかと言うと、NHKのオンラインニュース記事はテレビやラジオのニュース同様に口語調だからです。先述のとおり通訳訓練としての要約は通訳パフォーマンスを意識したものなので、口語調の文章を使い、常に「ですます調」で要約する癖をつけておくことが大切なのです。
NHK NEWS WEBには長短さまざまな長さのニュース記事が多数掲載されていますから、レベルに合わせて使いやすいものを選んで使ってください。
またNHKのニュース記事を使用した要約の練習方法や英語での要約の練習方法などは「要約の自主練習方法」の記事に詳しく書いてありますので、こちらも参考にしてください。
✔ おわりに
要約は慣れるまでは難しく大変な作業ですが、身につくと通訳技術として役に立つだけでなく、日常生活においてもわかりやすく伝わりやすい話し方ができるようになったり、相手の話をスムーズに理解できるようになったりするという嬉しい副作用もあります。通訳者を目指す人だけでなく、「話し上手」「聞き上手」になりたい人にもおすすめのトレーニングです。ぜひご活用ください。
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