こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
前回の記事でもご紹介したChatGPT。使えば使うほどにその技術の高さと便利さに驚かされています。現在試行錯誤を重ねながらその活用方法を模索しているところで、何か良いものが見つかればこのブログで共有していきたいと考えています。
そこで今回は私が実際に試してとても助けられた、通訳の事前準備におけるChatGPTの活用法をご紹介します。通訳の事前準備に関わらず、新しいことを学ぶ際に大いに役立つ方法なので、多くの方にご活用いただけたら嬉しいです。
✔ 何がわからないかがわからない
先日IT関連の会議の通訳をしました。以前にも受けたことがある仕事だったのですが、あまりに不出来だったため、できればもうやりたくないと思っていた仕事でした。
英語話者側も日本語話者側もITの専門家チームで、その中で私ひとりだけがITのド素人(数学嫌いの超文系)。しかも事前資料はなしという会議で、準備のしようがなく、初回は飛び交う聞いたこともない専門用語の波にのまれて手も足も出ないという何とも情けない経験をした仕事です。
しかしながらリピートでご指名をいただいたからには何とかしなければなりません。とは言え相変わらずどのような勉強をすれば良いのかもわかりませんし、クライアントに質問しようにも何をどう質問して良いかすらわかりません。まさに何がわからないかがわからない状態。 そこでChatGPTを使って対策をしてみようと思いつきました。
✔ ChatGPTにきいてみよう!
今回私が仕事の準備にChatGPTを利用した手順は次の通りです。
1.会議の中で最も頻繁に登場するサービスとソフトウェアについて質問する。
2.会議の内容と照らし合わせ、回答の中から重要そうなキーワードについて知っておくべきことを箇条書き(ワードリスト)にしてもらう。(これは単語リストとしても使えます。)
3.前回の会議で出てきた用語やワードリストの単語について個別に質問する。
4.ワードリストや解説を音読して、用語の意味を覚えつつ、用語を音で認識し反応できるようにしておく。(単語リストを作って安心、は絶対厳禁!)
このように大きなテーマからキーワードを頼りに絞り込んで行くと、欲しい情報を引き出すことができました。
このやり方は従来型の検索エンジンの使い方とほぼ同じです。しかしながら従来型の検索はキーワードで検索してから欲しい情報が載っていそうな個々のページを開くことが必要なのに対して、ChatGPTは欲しい情報をまとめて伝えてくれるという強みがあります。
従来型の検索では自分が欲しい情報に辿り着くまでに「検索→サイトのリストの中から『これかな』と思うものを選ぶ→ページの中から必要な情報を探す」という手順が必要でした。これに対してChatGPTは、インプットされている情報の中から必要な要素だけを抜き出して文章にまとめてくれるので、欲しい情報に辿り着くまでの手順を省くことができ非常に効率的です。
ただしChatGPTが導き出す回答が全て正しいということではないので注意が必要です。今回はITがテーマということで間違う可能性は低く、AIとの相性が良かったと言えます。
それではここから実際に私がどのように学習を進めたかをご紹介します。
※日本語訳にはDeepL翻訳を使用しています。固有名詞の間違いは修正しますが、基本的に手は加えずDeepLの訳をそのまま載せています。DeepLの翻訳は青色で表示しています。
1.AWSと●●(ソフトウェア)について教えて
Erika: I’m not an IT expert, but I have to be able to describe AWS and ●● in detail. What do I need to know?
ITの専門家ではないのですが、AWSや●●を詳しく説明できるようになるには、何を知ればいいのでしょうか?
ChatGPT: Sure, I can help you with that!
ChatGPT:もちろん、お手伝いしますよ。
AWS (Amazon Web Services) is a cloud computing platform that provides a wide range of services and solutions for businesses and individuals to build and operate applications and services in the cloud. AWS offers a comprehensive suite of computing, storage, database, analytics, machine learning, networking, mobile, development, security, and enterprise applications services.
AWS(Amazon Web Services)は、企業や個人がクラウド上でアプリケーションやサービスを構築・運用するための幅広いサービスやソリューションを提供するクラウドコンピューティングプラットフォームです。AWSは、コンピューティング、ストレージ、データベース、アナリティクス、機械学習、ネットワーキング、モバイル、開発、セキュリティ、エンタープライズアプリケーションの包括的なサービス群を提供しています。
AWS allows users to scale and grow their businesses without the need for large up-front investments in hardware and infrastructure. Users can select from a range of services and pay for only what they use, while AWS takes care of managing the underlying infrastructure, security, and maintenance of the services.
AWSを利用することで、ユーザーはハードウェアやインフラに多額の先行投資をすることなく、ビジネスを拡大・成長させることができます。ユーザーはさまざまなサービスから選択し、使用した分だけ料金を支払うことができ、AWSは基盤となるインフラ、セキュリティ、サービスの保守を管理します。
ソフトウェアの名前はここには書けないので詳細は省略しますが、このChatGPTの回答から、まずクラウドコンピューティングについて学ぶ必要があると判断しました。
2.クラウドコンピューティングについて教えて
Erika: Give me a list of terms and vocabulary to know regarding cloud computing.
Erika: クラウドコンピューティングに関して知っておくべき用語や語彙のリストを教えてください。
ここでただ「教えて」としなかったのは、まず関連する用語を知っておきたかったことと、箇条書きの方が簡潔な説明を得られるからです。下記リストは見やすいようにかなり省略しました。実際には20項目ほどあります。
ChatGPT: Here is a list of some key terms and vocabularies to know in the context of cloud computing:
ChatGPT: ここでは、クラウドコンピューティングの文脈で知っておくべき重要な用語と語彙のリストを紹介します。
Cloud computing: It refers to the delivery of computing services over the internet, including servers, storage, databases, networking, software, and analytics.
クラウド・コンピューティング:サーバー、ストレージ、データベース、ネットワーキング、ソフトウェア、分析など、インターネット上でコンピューティングサービスを提供することを指します。
Platform as a Service (PaaS): A cloud computing model that provides a platform for developing, testing, and deploying applications without the need for managing infrastructure.
PaaS(Platform as a Service):サービスとしてのプラットフォーム。インフラを管理することなく、アプリケーションの開発、テスト、デプロイを行うためのプラットフォームを提供するクラウドコンピューティングモデルです。
Software as a Service (SaaS): A cloud computing model that delivers software applications over the internet on a subscription basis.
Software as a Service (SaaS)(サービスとしてのソフトウェア):インターネット上でソフトウェア・アプリケーションを定額で提供するクラウド・コンピューティング・モデル。
Virtual machine (VM): A software implementation of a computer system that can run operating systems and applications like a physical computer.
仮想マシン(VM):物理的なコンピュータと同様にオペレーティングシステムやアプリケーションを実行できる、コンピュータシステムのソフトウェア実装。
Elasticity: A characteristic of cloud computing that refers to the ability to scale resources up or down based on demand.
弾力性(Elasticity):クラウドコンピューティングの特徴のひとつで、需要に応じてリソースを増減させる能力を指します。
Kubernetes: An open-source platform for managing containerized workloads and services, providing automated deployment, scaling, and management of applications.
Kubernetes(クバネティス):コンテナ化されたワークロードとサービスを管理するためのオープンソースのプラットフォームで、アプリケーションの自動デプロイメント、スケーリング、および管理を提供します。
3.用語について更に詳しく
ここでは上記リストの最後の単語”Kubernetes”についての質問と回答を紹介します。
Erika: What is Kubernetes?
Erika:Kubernetesって何?
ChatGPT: Kubernetes, also known as K8s, is an open-source container orchestration platform. It was originally developed by Google and is now maintained by the Cloud Native Computing Foundation (CNCF).
ChatGPT:Kubernetesは、K8sとしても知られている、オープンソースのコンテナオーケストレーションプラットフォームです。もともとはGoogleによって開発され、現在はCloud Native Computing Foundation(CNCF)によってメンテナンスされています。
Kubernetes provides a framework for automating the deployment, scaling, and management of containerized applications. It allows developers to package their applications and dependencies into lightweight containers that can be easily deployed and run across different environments.
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイメント、スケーリング、および管理を自動化するためのフレームワークを提供します。開発者は、アプリケーションと依存関係を軽量なコンテナにパッケージ化し、異なる環境でも容易にデプロイして実行できるようになります。
Kubernetes uses a declarative configuration approach, where users define the desired state of their applications and Kubernetes works to maintain that state. It provides features such as automated scheduling, automatic failover, self-healing, and horizontal scaling to ensure that applications are highly available and responsive.
Kubernetesは宣言型構成アプローチを採用しており、ユーザーはアプリケーションの望ましい状態を定義し、Kubernetesはその状態を維持するように動作します。自動スケジューリング、自動フェイルオーバー、セルフヒーリング、水平スケーリングなどの機能を提供し、アプリケーションの高い可用性と応答性を保証します。
Kubernetes is highly extensible and can be integrated with a wide range of tools and services. It is used by many organizations to build and deploy complex, distributed applications that run on a variety of infrastructure, from on-premises data centers to public cloud platforms.
Kubernetesは非常に拡張性が高く、さまざまなツールやサービスと統合することができます。多くの企業で、オンプレミスのデータセンターからパブリッククラウドプラットフォームまで、さまざまなインフラ上で動作する複雑な分散アプリケーションの構築とデプロイに使用されています。
Overall, Kubernetes is a powerful tool for managing containerized applications at scale, providing a consistent and reliable platform for deploying and managing modern, cloud-native applications.
全体として、Kubernetesはコンテナ化されたアプリケーションを大規模に管理するための強力なツールであり、最新のクラウドネイティブなアプリケーションを展開・管理するための一貫性と信頼性のあるプラットフォームを提供します。
4.資料の音読
ChatGPTに欲しい情報を書き出してもらった後は、とにかくそれを声に出して読みました。前回の会議で専門用語の波にのまれて溺れてしまった理由のひとつが、馴染みのない単語に全く反応できなかったことだったからです。
「目で見て読んでわかる」と「音で聞いてわかる」には大きな違いがあります。通訳者は音声情報に反応することが仕事ですから、黙読ではなく音読をし、「自分で使える」「聞いてわかる」状態にするまでが事前準備です。これはChatGPTが作る資料に限らず、どのような資料でも同じです。
こちらもおすすめ
✔ おわりに
最後にこの対策をした結果はどうだったのか、書いておきましょう。ITド素人の付け焼刃の対策ではありましたが、期待していた以上の効果がありました。用語を身体に馴染ませておいたことでリスニングの負荷が減り、ある程度概念を頭に入れておいたおかげで理解の助けにもなり、訳出も以前よりスムーズにできました。
今回何よりの収穫だったのは、「何がわからないかがわからない」から「これが知りたかった」に辿り着く方法を得たことです。これは通訳に限らずあらゆることに応用できる方法なので、ぜひ使い道を模索してみてください。
今後もChatGPTの便利な使い方、面白い活用法を思いついたらシェアさせていただきます。これからもどうぞ当ブログをよろしくお願いいたします。
次の記事:社内通訳初心者向けガイド - 職場で通訳を頼まれた時の準備と対策
前の記事:話題のChatGPTとDeepL翻訳に通訳を志す人に向けてエッセイを書いてもらいました
【お薦め記事】
◆ 自動翻訳で精度の高い英訳をするコツとお手本(機械の欠点の補い方&おすすめソフトDeepL)
コメントやご質問はお問い合わせページからお願いします。