こんにちは、英語同時通訳者でオンライン英語・通訳講師の山下えりかです。
今年(2023年)に入って以降、ChatGPTをはじめとする生成AIの進化が世界の注目を集めています。通訳・翻訳分野でもGoogle翻訳やDeepL翻訳という形で、数年前から言語処理を得意とするAIの存在は注目されてきました。
既に通訳・翻訳分野に大きな影響を及ぼしているこれらのAIの今後と、それに伴い変化する通訳の需要と求められるスキルについて、3年ほど前に私の予想を共有した記事があります。今読み返してみても私自身の見解に変化はなく、これを書いた当時よりも今だからこそ多くの人の目に触れてほしい情報です。前回再掲載した前半 『AI自動翻訳時代の通訳需要と必要スキル(上)』に続き、今回はその後半を再掲載します。
言語の分野に限らず様々な業種に大革新をもたらすAIとどのように付き合い、「人間だからこそ」のスキルをいかに伸ばし付加価値を身につけて行くか、その参考にしていただけましたら幸いです。
****再掲載記事はここから****
前回の『AI自動翻訳時代の通訳需要と必要スキル(上)』ではAI自動翻訳時代の通訳のあり方と通訳者として必要なスキルについてお話ししました。今回はその続きとして、前回の最後に挙げた通訳者として必要なスキルそれぞれの説明と、現在私のオンライン通訳講座を受講されている生徒さんたちの傾向から見える今後の通訳需要についてお話しします。
前回に続き再度断っておきますが、私がここで書く予想は総論です。AI自動翻訳が人間にとって代わると私が予想する業務のすべてがなくなるとは私も思っていませんし、個々の案件についてはそれぞれ様々な事情で残っていくと思います。そのため「全体的にはこうなるであろう」という話として読んでいただければと思います。
✔ これからの通訳に必要なスキルとは
まずは前回のおさらいから。今後通訳者を続けて行く上でまた通訳者を目指す上で必要なスキルとはどんなものなのかを、私は次のようにまとめました。
- AI自動翻訳の癖を知る
- 感情やニュアンスを正確伝えるスキル
- 従来の通訳技術
それでは、それぞれ詳しく見て行きます。
✔ AI自動翻訳の癖を知る
先日掲載したインタビュー動画『AI自動翻訳の実力と通訳のこれから』でもお話しした通り、今後は「自動翻訳の訳をリアルタイムで通訳者がチェックする」という業務が多くなると私は予想しています。
この作業を正確にかつスピーディーにこなすためには、日常的に自動翻訳や機械翻訳に触れ、その癖を知っておくことが大きなアドバンテージになります。日本語・英語それぞれの文章を機械翻訳で訳しその内容を精査すると、機械が何を読み取れて何が読み取れないのかが見えてきます。また意外にも訳語や表現の勉強にもなるので、ぜひ試してみてください。
また先日の記事『AI自動翻訳で高い精度の英訳をするコツとお手本』をご覧いただいた複数の方から、「オンライン講座でやって欲しい」というご要望をいただきました。その声にお応えし、この度「AI機械翻訳活用講座」を開講いたしました。実際に無料機械翻訳DeepLを使い、「日本語をどのように直したら正しい英訳ができるか」をレクチャーする講座です。こちらもご活用いただけましたら幸いです。
✔ 感情やニュアンスを伝えられるきめ細かい通訳
これは元々通訳者が鍛えている技術のひとつです。
通訳の勉強と言うと専門的な単語やニュース用語などをたくさん覚えることに注意が向きがちです。しかしながら感情やニュアンスを伝えきるよりきめ細かい通訳をするためにはそのような勉強だけでなく、会話で多用され多くの人に馴染みのある単語や表現や、シンプルかつ様々な表現に使える単語をいかにうまく使うかと言った、「生きた言葉」「生きた表現」にも重きをおいた学習も大切です。
また発言から言葉以外のメッセージを受け取る力が必要です。人の話を聞く際には話し手の表情や場の空気なども加味し、総合力で話を聞く力を養うことを心がけるのがおすすめです。
✔ 従来の通訳技術
もちろん、従来の通訳技術も必須です。
まず自動翻訳の訳をチェックするためには自動翻訳が訳すのと同じスピードで作業するする必要があるため、脳内のプロセスは実際に通訳をしている状態とほぼ同じになります。つまり「チェック」とは言っても同時通訳と同等のスキルが求められます。
またきめ細かい通訳をするためには「内容の正確な記憶」や「メッセージの要点を瞬時に見極める技術」といった従来通りの通訳技術が必要です。
そのため作業の内容が変わったとしても、従来通り通訳訓練で通訳技術を磨くことが重要と言えます。
✔ 「下」と「上」の仕事が減り残るのは
前回の記事で私は、通訳の仕事はスキルがあまり必要でない「下」の仕事と専門性の高い「上」の仕事から減少していくと予想されるとお話ししました。
「下」の仕事では全てがAI自動翻訳で事足りるようになるでしょうし、専門性の高い仕事では通訳者は訳すことではなくチェッカー的な役割を求められるようになると考えられます。そして残るのはその中間レベルの案件や、「上」よりも更に高度な案件となるでしょう。
この点は容易に想像できると思いますが、私がここ数年間オンライン通訳講座をやってきた中で感じているのが、社内通訳者への需要の高まりです。
✔ 企業が求める「英語ができる人の社内通訳化」
オンライン通訳講座の受講生の受講理由に多いのが、「会社で通訳をしてほしいと頼まれました。英語はある程度できますが通訳はやったことも勉強したこともないので通訳技術を身につけたいです」というものです。現在多くの企業で、「英語ができる人に通訳をしてもらおう」という需要が高まっているようです。
この理由はいくつか考えられます。
- コストカット
- 情報漏洩防止
- 社内事情に詳しい人間が安心 など
また新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃から同様の理由で受講される方が増えているので、現在は感染予防も理由のひとつです。
情報漏洩や感染拡大リスクなど、外部の人間を社内に入れることをためらう傾向は強くなっています。また新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込みから、通訳業務を外注せずに社内で何とかしたいというのも頷けます。
この現状は近年のコストカットや情報漏洩への意識の高まりに新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけた結果ですが、AI自動翻訳が本格的に活用されるようになってからもしばらく続く傾向だろうと私は予想しています。
自動翻訳は確かに便利ですが、精度向上のためにデータを提供するとなるとそこにはリスクが伴いますし、そもそもこのテクノロジーを本格活用しようとしない企業も多いでしょう。しかしながらビジネスのグローバル化は進んでいます。日本人で英語ができる人は増えてはいるものの、みんながみんなそうではありません。社内の情報を外部に漏らすリスクなく低コストで通訳を活用して行くためには、社内通訳が必要なのです。
✔ おわりに
以上2回にわたり、AI自動翻訳時代の通訳需要と必要スキル、また今後も伸びて行きそうな社内通訳の需要について私の分析と予想をお話ししました。いかがでしたでしょうか。
今時代は急激に変化しています。「これまで磨いてきた技術があれば大丈夫」と言って安心していられない時代が迫ってきていると、日々肌で感じていて、「これからどうなるのか、自分は何をすべきか」と常に考えを巡らせています。
その一方でこれまで磨いてきた技術もまた、次の時代を生きて行くために必要なものであると確信しています。これからも日々のトレーニングを大切にしつつ、変化を恐れず、時代とともに柔軟に進化できるようにありたいと思います。
次の記事:【短期記憶をUPしよう⑤】「話に理解が追い付かない」の解消方法(リテンション・リプロダクション強化のメリット)
お薦め記事:
- 自動翻訳で精度の高い英訳をするコツとお手本(機械の欠点の補い方&おすすめソフトDeepL)
- 話題のChatGPTとDeepL翻訳に通訳を志す人に向けてエッセイを書いてもらいました
- 通訳者 x ChatGPT 仕事の準備編 - 欲しい情報の引き出し方
- 【ChatGPT活用法】ChatGPTとElevenLabsのAI音声で自分だけのリスニング&シャドーイング用英語教材を作る方法
- 【AI生成通訳教材】Annual Performance Review(ChatGPT, ElevenLabs, 音読さん, Canva使用)
- 「Google翻訳でいいじゃない」世界最高齢プログラマー若宮正子さんの英語術
- 【インタビュー動画#2】AI自動翻訳の実力と通訳のこれから
コメントやご質問はお問い合わせページからお願いします。