こんにちは、コミュニケーション・ファシリテーターの山下えりかです。
数年前から、プライベートで会う人に「聞き上手ですね」と言われることが増えました。
もちろんコミュニケーション・ファシリテーターは通訳業務を含め人の話をよく聞くことが仕事なので、聞き上手であることは必要なスキルのひとつと言えます。その一方で以前の私自身は自分が聞き上手であると思ったことも意識したこともあまりなく、プライベートで「聞き上手ですね」と言われることに最初のうちは戸惑っていました。
しかしながらこれがきっかけで「聞き上手とは何か」を考えるようになり、私なりの答えに辿り着きました。そこから導き出した「聞き上手の極意」には誰でも今すぐ実践できるものもありますので、ここで共有したいと思います。日々のコミュニケーションの参考にしていただけたら嬉しいです。
✔ 聞き上手の極意
それではいきなり「聞き上手の極意」から紹介しましょう。私が思う聞き上手になるための極意は次の4点です。
1.話し手が話し終わるまで口を挟まずに黙って聞く。
2.話し手の話を勝手に先読みしない。
3.話し手の話の要点を見極められる読解力を磨くこと。
4.話を憶えておける短期記憶力を鍛えること。
それではひとつずつ解説して行きます。
もしもここで「もう極意を読んだからいいや」と思うような人は聞き上手とはほど遠い感覚の持ち主ですのでご注意を。話し手に喜ばれる聞き上手を目指すのであれば、どうぞ最後までお読みください。
✔ 話し手が話し終わるまで黙って聞く
「そんなの当り前でしょ」と思う人も多いでしょう。しかしその当り前のことを当り前にできているか、一度振り返ってみてください。
人の話を聞く時に、途中で何か疑問に思うことがあったり、すぐに自分の意見を言いたくなる瞬間に出くわすのは誰でも経験があることだと思います。そしてここで問題なのは、がまんができずに実際に口をはさんでしまう人が大多数であるということです。
私は仕事柄、話し手の話を邪魔したり声をかぶせたりしないように常に気を付けています。ここ数年はオンラインレッスンを本格的に始めたことや、コロナ禍でリモート通訳の仕事が増えたことで、これまで以上に気を付けるようになりました。特にリモートの場合は、声がかぶってしまうとどちらの発言も聞こえなくなってしまうことが多いためです。
この姿勢は対面の仕事でもプライベートでも習慣になっているため、これが私が「聞き上手」と言われるようになった一番の理由だと考えています。
誰でもそうであるように、話し手は思考しながら話しています。途中で話を遮るということは、話し手の思考を邪魔することと同じです。思考を邪魔されてしまうと、どこまで話したか分からなくなってしまったり、次に話そうとしていたことを忘れてしまったりして、思考と論理の再構築に余分な時間と労力がかかることになり、それはそのまま話し手のストレスになります。
話と思考を聞き手に邪魔されることが日常的に多いからこそ、話し手は最後まで黙って話を聞いてくれるだけで余計なストレスから解放され、その聞き手のことを「聞き上手」と思うのです。
実はこれは直近の私の体験から得た知見です。最近、夫の旧知の方とお話する機会がありました。話しているうちに「何だかとっても話しやすくて心地いい」と感じたのです。後で振り返ってみたところ、その方は一切口出しせずに私や夫の話を聞いてくれていたことに気づきました。
つまり、話し手の話を黙って最後まで聞くだけで、「聞き上手」と喜ばれる可能性は多分にあります。「聞き上手」への第一歩。まずはここから始めてみてはいかがでしょうか。
✔ 話し手の話を勝手に先読みしない
これも話の途中で口をはさむのと同じくらい厳禁な行為です。
なぜなら話し手の話を勝手に先読みするということは、話を聞きながら目の前の話とは異なる内容に思考を巡らせているということだからです。
つまりその時点で話し手が話していることに100%集中できていないということで、人によっては自分の思考に集中してしまい話し手の話がほとんど耳にも頭にも入っていないこともあり得ます。
話し手の言わんとすることを完全予測しなければならないような忖度必須の場面でない限り、大抵の場合は先読みなどしなくても待っていれば話し手はその先まで話をしてくれます。話してくれなかった時にはそこでその先を話してくれるよう促せば良いのです。
人と話をする時は勝手な予想に集中力を無駄遣いせずに、目の前の話に集中しましょう。そうすれば自ずと話の内容は憶えておけますし、自分が途中で言いたいと思ったことも忘れずにいられます。
✔ 話の要点を見極める読解力
話し手によっては、「この人の話し方、何が言いたいのか分かりづらいなぁ」と感じることもあります。そしてそう思った瞬間に、集中力が途切れ聞く気持ち自体をなくしてしまう人もいるでしょう。
要点が見えづらい話し方をする人には、通訳の仕事でもよく出くわします。そんな時私は、「分からないのは自分の読解力不足」と思うようにしています。そして何が何でも理解しようと全力で集中して話を聞きます。プライベートでは仕事の時ほどの集中と努力はしていないかもしれませんが、やはり理解しようと努力はしています。
話し手に「何が言いたいのか分からない」と正面から指摘できて、しかもそれが失礼にならないような場面はプライベートでも滅多にありません。つまりその対策としてできることは、日頃から自身の読解力と集中力を鍛え、話の要点を見極める力を養っておくことです。
この要約力があれば、本当に何が言いたいのか分からなくて困った時には、話の切れ目にでも「つまりこういうことですか?」と相手の話の要点を簡潔に確認することができます。もちろんここで言う「要約」とは「聞いた話の要約」であり、先の項目で触れた「勝手な予想に基づく推測」ではないので注意が必要です。
またすべての人が話上手でないのと同じで、すべての人が話下手ということでもありません。「分かりづらい」と感じたら、話し手の話し方のせいにする前に自分の理解力を疑うことから始めた方が建設的ですし、思いやりがあります。
✔ 聞いたことと言いたいことを忘れない記憶力
極意その1の解説で指摘したように、話し手が話している最中に質問したり意見を言いたくなるなどして、実際に話を遮ってしまう人は非常に多くいます。最後まで話を聞いていたら忘れてしまいそうだからとか、話の内容が変わってしまいそうだからとか、口をはさみたくなる理由は様々でしょう。
それでもやはり私は、話し手が話し終わるまで聞くのが礼儀だと考えています。そのため最後まで聞き終えてから質問したり意見を述べたりできるように、その時聞いたことと自分が話したいと思ったことを憶えておけるだけの記憶力を鍛えることも、聞き上手になるために重要と言えます。
私たち通訳者にとって、話し手の話を正確に覚えるのはリテンション(短期記憶力)と呼ばれる基礎技術のひとつです。そのためこれは私が通訳者だから得意なスキルであることも事実です。
もちろんすべての人が通訳者のようなスキルを身につける必要があるとは思いません。話の記憶については、できるだけ憶えていられるように重要だと思った点を意識すること、そして、話を聞いている最中に余計なことを考えることをやめて話に集中する習慣をつけることで、ある程度の対策は可能だと思います。
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✔ おわりに
最後になりますが、「聞き上手」かどうかは話し手の感じ方次第です。「聞き上手」を目指す人は、「自称聞き上手」は成立し得ないことを肝に銘じておきましょう。
今回紹介した「聞き上手の極意」は、特に最初の2つは今すぐ誰でも実践できることです。そして4つすべてに共通して言えることは、話を聞く時には相手のペースを大切にし、自分のペースや勝手な思い込みを押し付けてはいけないということです。
日々のコミュニケーションをより円滑にしより楽しいものにするために、参考にしていただけたら幸いです。
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
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