こんにちは、コミュニケーション・ファシリテーターの山下えりかです。ご訪問いただきありがとうございます。
2023年11月の記事【AI通訳】現役通訳者がポケトーク同時通訳を使ってみた◆デモ&感想では、ポケトーク同時通訳の実用性についてお話ししました。動画からお分かりいただける通り、ポケトークは既に7~8割程度の精度で通訳(翻訳)ができていて、プロレベルの通訳を求めないのであればビジネスシーンでも使えるレベルです。
2023/11/15 UP:【YouTube動画】現役通訳者がポケトーク同時通訳を使ってみた◆デモ&感想 / POCKETALK AI Simultaneous Translation (Interpretation) DEMO
しかしながら特に日本語から英語への翻訳については、意図通りに英訳できていない箇所がいくつかありました。
AI翻訳で良い英訳をするためには日本語の使い方に工夫が必要です。この記事ではAI翻訳を使いこなすために必要な国語力を具体例を使って解説します。
今回は前回意図通りに英訳されていなかった箇所を、元の日本語を修正することで意図通りの英訳に近づけます。
それではここから、AI翻訳や機械翻訳で意図通りの英訳をするための日本語の書き方について解説します。
✔ YouTube動画 (2024/3/15 UP)
本記事の内容は下記動画でも解説しています。こちらも併せてご利用ください。
✔ AI翻訳と相性の良い日本語文の作り方
まずはAI翻訳と相性の良い日本語の文の作り方のポイントを押さえておきましょう。
1.主語を明確にする
2.内容は具体的に書く(話す)
3.文は短く区切る
更に、ポケトークについては音声認識の精度を上げるために次の点も重要です。
4.良いマイクを使う
5.ゆっくり、はっきり話す
それではここから、元の日本語をどう修正したのか、そしてその結果英訳がどう変わったのかについて解説して行きます。
✔ 同音異義語の回避(音声認識精度向上のため)
1つ目の修正箇所はこちらです。
こんにちは、日英同時通訳者の山下えりかです。
Hello.This is Erika Yamashita of Japanese-English Simultaneous Interpretation Company.
ここでは「同時通訳者」ではなく「同時通訳社」と音声認識されています。
これは翻訳精度ではなく音声認識機能の問題ですが、元の音声が正しく認識されないと正しい翻訳もできないのでこれが正しく認識されるように日本語を修正します。
【修正前】
こんにちは、日英同時通訳者の山下えりかです。
【修正後】
こんにちは、山下えりかです。私は日本語と英語の同時通訳をしています。
前述の通り、「同時通訳者」と言うと音声認識の段階で「者」を「社」と誤認されてしまうことがあるようなので、「同時通訳者」という単語を使わずに表現する方法に変更しました。
それではこれによって英訳がどう変わったのか見てみましょう。
【修正前】
Hello.This is Erika Yamashita of Japanese-English Simultaneous Interpretation Company.
【修正後】
Hello.
My name is Erika Yamashita.
I am a simultaneous interpreter between Japanese and English.
修正後の日本語表現では正しく「同時通訳者」と認識されています。
音声認識の精度を上げるためにできる限り同音異義語の存在する単語の使用は避けることで、翻訳の精度も上げることができます。
✔ 主語を明確にする&文を分ける
2つ目の修正箇所です。
このチャンネルでは、英語学習、通訳訓練、通訳のノウハウなど、私がこれまで培ってきた経験や知識を皆さんと共有していきたいと思っています。
On this channel, we discuss English Learning, interpreting issues,
I would like to share the experience and knowledge I have cultivated so far with everyone.
ここの問題点は、主語の誤認があり、同じ文の中で主語が統一されていないことです。これは主語が無くても成立してしまう日本語特有の問題で、最近では機械翻訳の精度も上がり以前ほどめちゃくちゃにはならなくなったものの、未だに多発している問題です。
この問題を回避するために必要なのがポイント1であげた主語を明確にすることです。
ここではこのように日本語を修正しました。
【修正前】
このチャンネルでは、英語学習、通訳訓練、通訳のノウハウなど、私がこれまで培ってきた経験や知識を皆さんと共有していきたいと思っています。
【修正後】
私のYouTubeチャンネルでは私の経験や知識を皆さんと共有します。具体的なテーマは、英語学習、通訳訓練、通訳のノウハウなどです。
前回はこの文の主語を明確にしなかったことが原因で"we"と"I"が混在してしまったため、ポイント1であげた通り主語を明確にしました。また2つの内容を含む文を内容ごとに独立した文に分けることでよりAIが内容を認識しやすくなります。これはポイント3であげた文は短く区切るのやり方です。
それでは、修正後の英訳の変化を見てみましょう。
【修正前】
On this channel, we discuss English Learning, interpreting issues. I would like to share the experience and knowledge I have cultivated so far with everyone.
【修正後】
On my YouTube channel, I will share my experiences and knowledge with you. Specific themes include English learning, interpreter training, and interpreter know-how.
主語の誤認を修正できただけでなく、文を分けたことで最初に抜けていた「通訳訓練」も含まれてより正確で分かりやすい英文に訳すことができました。
✔ 具体的に書く・話す
3つ目の修正箇所です。
私は高校と大学でアメリカに留学しましたが、今の私の英語力の土台は中学校で学んだ英語です。
I studied abroad in the United States as a university student, and one of my current English skills comes from the English I learned in junior high school.
これだと「私は大学生の時にアメリカに留学しました。そして私の英語スキルの一部は中学校で学んだ英語が基になっています。」となっていて、「高校」が抜けてしまっているだけでなく、原文の意味と異なる英文になっています。
これを次のように修正しました。
【修正前】
私は高校と大学でアメリカに留学しましたが、今の私の英語力の土台は中学校で学んだ英語です。
【修正後】
私は高校と大学の時にアメリカに留学しました。私が英語が得意なのは留学したからだと言う人がいますが、それは違います。今の私の英語力の基礎となっているのは日本の中学校で学んだ英語です。
元の文では「しましたが」とすることで行間に「大事なのは留学ではなく中学英語」という意味を含ませています。しかしAIは行間を読みません。それを期待すると誤訳に繋がります。AIに正確に内容を伝えるためには、そこにどのような意図があるのかを言語化しなければなりません。このような理由から、上記のようにより具体的な表現に変更しました。これはポイント2であげた、内容は具体的に書く、話すのやり方です。
それでは修正後の英訳を見てみましょう。
【修正前】
I studied abroad in the United States as a university student, and one of my current English skills comes from the English I learned in junior high school.
【修正後】
I studied abroad in the United States during high school and college. Some people say that I'm good at English because I studied abroad, but that's not true. The foundation of my current English skills is the English I learned at junior high school in Japan.
修正前は言語化されていなかった部分を言語化することで、意図通りの英訳を引き出すことができました。
✔ 日本語で英語を使える時代
以上、AI翻訳と相性の良い日本語の使い方の解説でした。
ポケトークをはじめ、AI翻訳・通訳ツールの進化により、言語の壁はなくなりつつあると思います。
しかしそれを使いこなすためには、母語である日本語の力が重要です。
AI翻訳・通訳ツールは、英語を日本語で使うという新しい英語の使い方、学び方を提供してくれる新しい時代のツールです。英語が苦手、英語がコンプレックスと言う方は、ぜひ、国語力を鍛えて日本語で英語を使う方法を模索してみてください。
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り