こんにちは、コミュニケーション・ファシリテーターの山下えりかです。ご訪問いただきありがとうございます。
「英語ができるんだから通訳できるよね」
これは語学と通訳に関しても最もよくある、そして最も根深い世間の誤解です。そしてその誤解ゆえに、自分で「できる」と思って挑戦し失敗する人もいれば、社内で「できるよね、頼んだよ」と軽い気持ちで任されてやはり思ったようにできずに大変な目に遭わされる人も、数多くいます。
ここ最近は英語に触れる人たちの間ではその誤解も少し解けてきてはいるようで、「英語ができるだけでは通訳はできない」という認識も広まりつつあると感じます。しかし実際にはなぜそうであるのか、腑に落ちていない人も多いという印象なので、今回はその理由をひとつずつ並べて解説したいと思います。
✔ なぜ英語が得意なのに通訳はできないのか
まずは結論からお話ししましょう。「なぜ英語が得意なのに通訳はできないのか」その理由は至って単純で、「通訳技術を身につけていないから」です。
高い語学力は通訳技術を身につけるために必要不可欠な要素ですが、それはあくまでもスタート地点に立つために必要なスキルのひとつに過ぎず、通訳をするために必要な技術はそこから更にトレーニングを積まなければ身につけることはできません。
それはスポーツに例えるならこのような状態です。
「毎日筋トレは欠かさずにやっているし筋力には自信がある。(英語ができる)」
「でもなぜ野球は上手くできないのだろう。(通訳はできない)」
どんなに筋力があろうとも、ボールを拾ったり、投げたり、打ったり、更には走ったり...という練習をしなければ、野球が上手くなることはありません。英語と通訳も同じで、いくら筋力にあたる英語力が高くても、野球のために必要なボールを拾う、投げる、打つといった技術にあたる通訳技術がなければ、通訳はできないのです。
通訳に必要な技術には、リテンション(話を正確に覚える技術)、リプロダクション(話を正確に再現する技術)、要約(話の核心を捉える技術)、メモとり(記憶の補助となるメモをとる技術)、訳す(話を別言語に訳出する技術)などがあげられます。どれもそれぞれトレーニングと反復練習で身につける必要があるものです。
ここからは通訳技術について細かく説明して行きます。
✔ リテンション&リプロダクション
リテンション&リプロダクションは、聞こえてきた内容を一言一句正確に記憶して繰り返す技術です。正確な記憶は正確な通訳に不可欠です。
しかし日本語でさえも日常でこのような技術を要求されることはありません。つまりこれは日本語でもほとんどの人ができないのが当たり前で、「英語を勉強してきたから」というだけでできるものではありません。
【参考】
- 図で見て解るリテンション(短期記憶)|何ができていないのかを知る
- 「リテンションができない=記憶力が悪い」ではない|リテンション習得に必要な4つのスキル
- 同時通訳者Erika流「リテンション&リプロダクションの自主練習方法」
- イメージを思い浮かべてリテンション&通訳をするには
- リテンション(短期記憶)ができない原因と対策
✔ 要約
要約は、一定の長さの発言を聞き、枝葉の情報をそぎ落として重要な情報だけを残し話をまとめる技術です。表面的な言葉をただなぞるのではなく、伝えるべきメッセージを見極めることもまた分かりやすく伝わりやすい通訳に必要な技術です。
これもリテンション同様に、日本語でさえも十分に要約の訓練を受けてきた人は少ないでしょう。そのためこれもまた、必要なトレーニングを受けていないのですから日本語でも英語でもできないのが当然と言えます。
【参考】
✔ メモとり
通訳のメモの目的は記憶の補助です。つまりリテンションの技術が高ければ高いほど、メモは少なく済むだけでなく、メモをより有効活用することができます。逆にリテンションができていない状態で聞こえた言葉をただ書き留めるだけのメモをとってしまうと、後で見直した時に何が書いてあるのか分からず、内容も頭に残っておらず、通訳に全く役に立たないメモになってしまいます。
メモとりの前段階であるリテンションの技術が確立していなければ当然ながら、効果的にメモをとる技術は身につけられません。これもまた日本語や英語を単に「使う」ことの更に先にある技術です。
【参考】
✔ 訳す
上記すべての基礎技術と話の内容を別言語で表現する技術(訳す技術)の上に成り立つのが「通訳」です。つまり上記のどれかができていなければ上手く訳すことなどできません。
先述の通り、「英語ができる」は通訳訓練のスタート地点に立つために必要な条件なのであり、通訳技術はそこから新たに積み上げなければならない総合的な技術なのです。
✔ 外国語よりも大切な母語の力
通訳の技術として多くの人が見落としがちなのが、母語である日本語の力です。高い英語力は言うまでもなく大切なスキルですが、それ以上に重要なのは母語である日本語をどれだけ適切に使いこなせているかという点です。それは語彙や表現の幅にとどまらず、日本語を話す際にいかに聞きやすいデリバリーができるかということも含まれます。
どんなに英語が上手でも、日本語の発言の理解を誤ってしまったり、日本語で訳出する際のパフォーマンスが悪ければ、通訳者の信用に関わります。また、母語でできないことは外国語ではもっとできません。日本語で良いパフォーマンスができなければ、英語のパフォーマンスの質も推して知るべしということです。母語のパフォーマンスに不安を抱かせる通訳では、お客様に満足していただくことは難しいでしょう。
そのため通訳技術を磨くうえでは、日本語のシャドーイングや音読による日本語の語彙やデリバリーの強化も英語学習同様に重要であるということも付け加えておきます。
✔ おわりに
以上が、「英語ができるだけでは通訳はできない」理由です。
私のこの記事一本で世間の誤解が全て解けるなどとは思いませんが、せめてこれを目にした人にはその誤った認識を改めていただくきっかけになれたら幸いです。そして更には、まだ見ぬ誰かが通訳者を目指す覚悟を決めるきっかけになれたらこの上なく嬉しく思います。
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関連記事:
- 【通訳訓練】「リテンションができない=記憶力が悪い」ではない|リテンション習得に必要な4つのスキル
- 【動画】通訳の記憶力・リテンション技術を徹底解説◆正確な記憶に必要な4つのスキル
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- 逐次通訳と同時通訳の違い
- 通訳になるには?通訳に向いている人・向かない人
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り