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24/9/11 更新:【日英対訳】ハリスvsトランプ◆米大統領選TV討論会 - 全文和訳
日本時間の2024年6月28日(金)午前、アメリカのバイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会がCNNで実施&生中継されました。アメリカの大統領選挙は私たち夫婦にとって最大関心事のひとつです。4年に一度この時期になると、予備選挙からニュースを追いかけ、候補者討論会も可能な限り視聴しています。
夫と共に今回の討論会を視聴するにあたり、ポケトークライブ通訳(ポケトーク同時通訳)を使用しました。この記事ではポケトークライブ通訳を使用するに至った経緯とそのパフォーマンスについて感じたことを共有します。
✔ NHKの同時通訳
今回の討論会は日本時間の金曜日午前中の実施で、私は通常はオンラインレッスンの時間です。ですがこの日はたまたま放送時間にレッスンの予約がなかったため、夫とともにリアルタイムで視聴できました。
NHKの放送では同時通訳が付くとのことだったので、はじめのうちはNHKで視聴していました。ところが見始めて間もなく、夫がポツリと一言。
「聞きづらい。言っていることが分かりづらい。」
誤解のないように書いておきますが、夫は私の(通訳の)仕事の良き理解者です。そして私だけではなく全ての通訳者とその仕事に敬意を払うことを忘れない人です。
また私自身、仕事で同時通訳をしていますので、その難しさはよく分かっています。しかも今回の討論会は事前資料のようなものはなく、完全にぶっつけ本番の、いわゆる「純生同通」です。加えて両候補は早口で話し、所々不明瞭で、聞き取るだけでも困難なものでした。バイデン大統領に2人、トランプ前大統領に2人、更にMCに1人の、合計5人の同時通訳者が入る万全の体勢がとられていたことからもその難度の高さは明らかです。
それでも尚、この時の同時通訳に聞きづらさがあったことは否めませんでした。「うーん...皆さん実力のある通訳者さんだし、すごい技術なんだけどなぁ...」とは思いつつも、せっかく一緒に見るのだから少しでも分かるようにできないかと思い、ポケトークライブ通訳を使うことにしました。
✔ ポケトークライブ通訳の実力
それではポケトークライブ通訳ではどうだったのか。これはこれでまた違った難しさがありました。
まずパソコン上で流れる音声の通訳にポケトークライブ通訳を使う場合、翻訳文の音声読み上げの機能は使えません。(この時はCNNのサイト上のライブ動画を使用。)そのため「通訳を聞く」のではなく「翻訳文を読む」ことになります。
そしてポケトークライブ通訳は音声認識で聞き取った情報のすべてを翻訳するため、リアルタイムで大量の翻訳文が流れてきて、その速度で全てを読むのは極めて困難です。
とは言え夫曰く、「読むのは速くて大変だけど言っていることは分かるし、こっちの方がいい」とのことでした。私も同感です。
またテレビで同時通訳を聞く場合、音声チャンネルを同時通訳に合わせることになるため、私も基本同時通訳しか聞けません。しかしポケトークライブ通訳を使うと、私は英語で元の音声を聞き、夫はリアルタイム翻訳を読むことができます。また訳抜けや分かりづらい箇所は私が補足説明をすることもでき、私と夫双方にとって望ましい環境で視聴することができました。
この討論会の全編をポケトークライブ通訳でリアルタイム翻訳した動画がこちらです。ぜひご自身でその実力を体験してください。私は、満点ではないけれど及第点だと感じています。
✔ それぞれの長所と短所
今回感じた人間の同時通訳とポケトークライブ通訳それぞれの長所と短所をまとめました。
◆ 人間の同時通訳
【長所】重要なポイントを中心にまとめて訳出してくれると聞きやすい。
(残念ながら今回の討論会ではこれが十分にできていなかったためポケトークライブ通訳に切り替えました。)
【短所】ただし上記のような通訳の場合、まとめ方は通訳者個人の能力に左右されるため、聞き手が受け取れる情報が制限されたり内容にばらつきがでる。また聞き取れた箇所のみ単発的に訳出されることがあり、この場合も情報が十分に伝わらない可能性がある。
◆ ポケトークライブ通訳
【長所】音声認識できた情報の全てが訳出されるため、聞き手(読み手)はほぼ全ての情報を受け取ることができる。人間の通訳のように交代がないため内容も精度もぶれない。
【短所】全ての情報をリアルタイムで訳出するため、スピードが早すぎる&情報量が多すぎることで情報を処理しきれない場合がある。
✔ 選択肢が増えるのは良いこと
今回の討論会では少なくとも私と夫はポケトークライブ通訳が思いのほか使いやすかったのですが、いつもそうとは限りません。今回の一例だけをとって「人間の同時通訳よりもポケトークライブ通訳の方が良い」などと言うつもりはありません。
ここで大切なのは、選択肢が増えたということです。
かつては英語が苦手な人が今回の討論会を視聴したいと思った場合、人間の同時通訳を聞く以外の選択肢はありませんでした。しかしこれからは、プロが情報を選んで短く聞きやすく訳出するものを好むなら人間の同時通訳を、スピードや情報処理の負荷はかかっても全ての情報を並べて自分で解釈したいのならポケトークライブ通訳のようなAI通訳システムを使う、という選択をすることができるのです。
おわりに
職人技である人間の同時通訳と、技術の進歩により実現した手軽に使えるAI通訳。どちらも一長一短あり、どちらを使うかは使う側の考え方次第です。
通訳サービスを提供する側である私自身は、人間の手による通訳を求めてくださるお客様のニーズに応え続けられるよう、これからも自己研鑽に励みます。また同時にAIの進化もよく観察し、AIと共生できる未来に向かって行きたいと考えています。
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【About Erika】
職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)
現住所:札幌市
留学歴:3年(アメリカ)
特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)
趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り